Japana Sociala Forumo

続ダイオキシン問題小史

ベトナム戦争 枯葉作戦
日本はどこまで手を貸していたか

第2回化学兵器枯葉剤は日本製か?

原田和明

71年に林野庁が慌てて2,4,5-Tを処分しようとしたのは、米軍がベトナム戦争で大量に散布した枯葉剤の中にダイオキシンが含まれており、甚大な健康被害をもたらすことが判明したからです。枯葉剤は、2,4-Dという物質と2,4,5-Tという物質の混合物であり、これに含まれているダイオキシンは「目的外の不純物、化学合成の際にできてしまう余計な物質」でした。

ところで林野庁が廃棄した2,4,5-Tはどこで、何の目的で製造されたのでしょうか? ヒントは国会議事録の中にありました。

69年7月23日、衆議院外務委員会において、楢崎弥之助委員(社会党)が「三井化学の大牟田工業所は、二四五Tなり二四五TCPをつくっている」と述べました【1】。2,4,5-TCPは2,4,5-Tの原料です。さらに「日本の工場で、ベトナムの枯れ葉作戦に使われておるこういう化学兵器がつくられているんじゃないか」と指摘して調査を要求しています。なんと、ベトナムだけでなく参戦国の兵士にも甚大な被害をもたらした「あの」ダイオキシンを含む枯葉剤が実は日本製ではないかというのです。

そして楢崎は、68年に大牟田工業所で事故が起きていることを追求しました。

──私がいま調べて確認しておるところだけ言うと、約三十人この[2,4,5-TCPと2,4,5-Tの]製造過程において被害が出て、皮膚炎、それから血圧の比重が下がったり、白血球に移動がきたり、肝臓障害を起こした。現在も皮膚患者が続出しておるわけです。この二四五Tなり二四五TCPは市販されていないはずです。そして秘密工場とまではいわないまでも、非常に隠された状態で生産されておる。で、こういう被害者が続出したのです。ガスマスクを使用して工員が生産に当たっている──

林野庁に2,4,5-Tが納入されたのは67年からで、製造時期と一致しています。楢崎の調査によると、2,4,5-Tの輸出先はカナダとオーストラリアになっていたそうです。

米軍の枯葉剤散布(枯葉作戦)は62年から71年で、特に激しかったのは68年から70年でした。そこで楢崎は、67年4月の米ビジネス・ウイーク誌が、「米軍がアメリカの生産能力の四倍の2,4,5-Tを要求」と報道したことをとりあげ、要求理由は米軍が枯葉作戦でベトナムに使うためであり、この時期に三井東圧化学大牟田工業所で秘密裏に製造し始めた2,4,5-Tは「当然ベトナム向け」ではないのかと政府に詰め寄りました。

それに対し下村孟厚生省薬務局参事官は、「調べられる限りは調査をいたしまして、御報告申し上げます」と答えただけで、楢崎に報告されることはその後ありませんでした。

米軍が枯葉作戦を展開していた時期、日本では大量のPCPが製造されていました。PCPは除草剤で、2,4,5-TCPの廃液から合成可能することができます。米軍の枯葉剤総使用量は約7万トンだったのに対して、国内のPCP総生産量は約14万トンでした。

枯葉剤が使用された期間のできごとを列挙します。

61年
4月
三西化学(当時は三光化学、三井東圧化学の子会社)が、福岡県久留米市の郊外にある鹿児島本線荒木駅のすぐそばに久留米工場を設立し、PCPの生産を開始する。その直後から従業員と工場周辺の住民が健康障害を訴え始める。
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林野庁が、国有林で2,4-Dと2,4,5-Tを混ぜた「除草剤」の空中散布テストを開始する。全林野労組は労働者の衛生問題をあげて抗議し、地域の住民とともに反対運動を展開する。
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肥料取締法の改正によってPCPを肥料に混入することを合法化する。
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11月
ケネディー大統領が枯葉剤作戦を承認する大統領命令に署名する。
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12月
米軍がベトナムで枯葉剤の散布テストを行い、ベトナム政府の承認を得る。
62年
1月
米軍が枯葉作戦を開始し、ベトナム各地に枯葉剤を散布する。
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7月
有明海や琵琶湖で魚介類が大量に斃死(へいし)する。水産庁は、集中豪雨のために水田のPCPが流出したのが原因と断定する。
62年
8月〜10月
鹿児島本線荒木駅の駅長が、くしゃみ・喉の痛み・流涙・頭痛など駅員が訴える症状の記録する。駅前の久留米工場からの悪臭は計42回(4195分間)、そのうち鼻腔を刺激する悪臭は25回(1714分間)。駅長は久留米工場に電話での抗議を16回、出かけての抗議を5回する。
62年
10月
厚生省に委託された上田喜一(東京医科歯科大)調査団が山西化学久留米工場を調査する。PCPの飛散や流出によって汚染があったこと、「不純物」として2,4,5-TCP(2,4,5-Tの原料)が大量に検出されたことを報告する。
63年
3月
枯葉剤の成分が2,4-Dと2,4,5-Tであることが判明する。
64年
9月
国内で2,4,5-Tを植物成長調整剤として農薬登録する。
64年
枯葉剤メーカーの米ダウケミカル社で2,4,5-Tによる従業員の職業病が多発するう。
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日本が国産2,4,5-Tの輸出を開始する。
65年
3月
ダウ社の本拠地ミッドランドに2,4,5-Tのメーカー5社の役員が集まり、2,4,5-Tに含まれるダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)の問題と、クロロアクネや肝臓障害など職業病の対策について会議を開催する。
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ダウ社は囚人による2,3,7,8-TCDD の人体実験を決行し、その毒性を確認する。さらにダウ社は西独企業より毒性情報を入手する。
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ダウ社は2,4,5-T製品中のダイオキシンを1ppm 以下の含有量にする製法に変更する【2】。 国産PCPもなぜかこの年以降の製品中のダイオキシンの含有量が劇的に減少【3】
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2,4-Dと2,4,5-Tを混ぜた国産の除草剤ウイードンブラシキラーとウイードン2,4,5-Tの生産が始まる。
67年
米軍はベトナム戦争の戦局打開のため、枯葉作戦の大規模化を画策、ダウ社などに生産量の4倍となる枯葉剤を発注する。
68年
ベトナム帰還兵に異常が続出、枯葉剤や不純物のダイオキシンが原因と認められる。
・・・
1月〜7月
福岡県大牟田市の三井東圧化学大牟田工業所で事故が続発。約30人の従業員が被災し、皮膚炎、肝臓障害、白血球数値の異常などを起こす。
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三井東圧化学大牟田工業所は2,4,5-TCPあるいは2,4,5-Tを「秘密裏に」製造し海外へ輸出。国内向けはなぜか全量を林野庁に納入する。
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林野庁が国有林で2,4-Dと2,4,5-Tを混ぜた「除草剤」の空中散布テストを再開する。
69年〜70年
林野庁が「除草剤」を大量に空中散布する。
70年〜71年
林野庁の空中散布に反対する全林野労組と地域住民の闘争が激化する。
71年
4月
林野庁が「除草剤」の空中散布テストを中止する。
・・・
6月
米軍が枯葉作戦を中止する。
73年
2月
三井東圧化学大牟田工業所が約40人の下請従業員に対し無許可でPCPと2,4,5-TCP(2,4,5-Tの原料)の皮膚貼付試験を実施する。
73年
4月
衆議院社会労働委員会で、三井東圧化学大牟田工業所の「人体実験」について追求する【4】。労働省は、大牟田工業所で従業員が被災し、2,4,5-TCP(2,4,5-Tの原料)の中毒患者が32人、PCPの中毒患者が24人あり、熊本大学付属病院で治療中であることを認める。
73年
12月
久留米工場の周辺住民が、ダイオキシンで被害を受けたとして三西化学(三井東圧化学の子会社)を提訴する。(99年2月、最高裁は上告を棄却し、原告の敗訴が確定した)

農水省がPCP中に「有害」ダイオキシンの存在を認めたのは99年7月、さらにPCPの回収命令が出されるのはさらに遅れて2002年4月でした【5】

楢崎は前述した追求の中で次のように述べています。

──日本の工場で、ベトナムの枯れ葉作戦に使われている化学兵器がつくられているんじゃないか。こういうことを日本の工場でやる。そして事故まで起こして、現在もその患者が続いておる。こういうことをしておって、外国に、やれ化学兵器はいけないの、生物兵器はいけないのと言えるか、説得力があるか、私はこれを言っているのです──

この時期は沖縄の米軍基地で毒ガス兵器の爆発事故があり、米軍が沖縄での化学兵器貯留を認めたころでした。日本政府は化学兵器や生物兵器に反対すると主張していたのに、これでは説得力などないではないかと楢崎は訴え、「ひとつ外務大臣の御感想をこの際聞いておきたい」と迫りました。愛知揆一外務大臣答えて曰く、「特に感想もございません・・・」。

【1】第061回国会、衆議院外務委員会、第33号(1969年7月23日)。 http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/061/0110/06107230110033a.html

【2】OMPのダイオキシン・環境ホルモンサーベイランス 。 http://city.hokkai.or.jp/〜hotta/diox-ct.html

【3】中西準子のホームページ、雑感3−54(1999年7月19日)。 http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak51_55.html#zakkan54

【4】第071回国会、衆議院社会労働委員会、第12号(1973年4月3日)。 http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/071/0200/07104030200012a.html

【5】旧PCP協議会「PCP製品(ペンタクロロフェノール)の回収について」。 http://www.mitsui-chem.co.jp/whats/020412b.pdf
旧PCP協議会のメンバーは、呉羽化学工業株式会社・大日本インキ化学工業株式会社・富山化学工業株式会社・日本カーバイド工業株式会社・日本曹達株式会社・保土谷化学工業株式会社・三井化学株式会社・三菱化学株式会社。

編集/安濃一樹
ヤパーナ社会フォーラム
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