Japana Sociala Forumo

続ダイオキシン問題小史

ベトナム戦争 枯葉作戦
日本はどこまで手を貸していたか

第5回PCB処理事業

原田和明

2002年1月12日、坂口力・厚生労働相は「カネミ油症の原因物質はPCBよりもダイオキシンの一種のPCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)の毒素が強いと分かった」と発言し、油症という言葉が久々に全国紙の一面に取り上げられました。

1968年に発覚したカネミ油症事件では認定患者だけでも九州を中心に1800人以上でました。PCBが混入した食用油による大規模な食品公害事件です。83年6月に九州大学が油症の原因にダイオキシンの影響を報告し、国際学会でも油症はYUSHOとしてダイオキシンの人体影響を知ることができる重要な事例とみなされていました。それにも関わらず、マスコミは騒動の最中に枯葉剤メーカーのキャンペーンそのままに「猛毒ダイオキシン」と紹介しながら、学術的にダイオキシンによる人体被害が認められた国内事例について報道することはほとんどありませんでした。

油症とダイオキシンの関係が学術的に証明されて約20年、国会で原因物質はダイオキシンではないかと質問されてから約30年ものあいだ、油症ダイオキシン関与説を国は頑なに認めようとしなかった。それをなぜ02年になって認めたのでしょうか。

坂口発言について、ダイオキシン被害防止を訴える市民団体は「ダイオキシンによる健康被害例を初めて国が認めたといえる内容で画期的」と評価していると報道されました。その市民団体自身が働きかけて実現した発言であったことを思うと、自画自賛も仕方ないことですが、それだけではない背景もありそうです。

01年5月、PCBやダイオキシンを含む残留性有機汚染物質の排出を規制するストックホルム条約が採択。同年6月、国内でPCB特別措置法が成立。02年8月、ストックホルム条約を日本政府が批准。これに続き、PCB処理事業が始まろうという時期に、厚生労働大臣の発言があったことになります。

そもそも、PCBはカネミ油症事件を契機として1973年に制定されたといわれる「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」によって「第1種特定化学物質」に指定され、以来今日まで各保有者による保管が義務付けられてきました。PCB特別措置法は、30年来のお荷物を一気に処分しようという国家プロジェクトの法的根拠となるものです。

PCB処理事業はカネミ油症事件の舞台となった福岡県北九州市が一番に受け入れを表明し(01年11月1日、環境大臣認可)、愛知県豊田市(02年10月24日)、東京都(02年11月8日)、大阪市、北海道室蘭市(03年2月19日)の合計5事業がこれまでに認可されています。

PCB特別措置法と同時に成立したのは環境事業団法改正法案です。ここに、PCB廃棄物を2016年までに環境省等の外郭団体である環境事業団が処理施設を設置、処理事業を行なう国家プロジェクトの体制が整えられました。環境事業団は、もともと環境NGOへの補助金助成や廃棄物の最終処分場の選定が主な業務で、中央省庁再編の折、整理される予定の団体でした。ところがこれまでの業務内容と大幅に異なり、全く経験のないPCB処理事業の受け皿となることで存続することとなりました。現在の役員には厚生省、通産省、大蔵省出身者が名前を連ね、PCB処理事業にはダイオキシン特需で活躍したプラントメーカーも多く入札に加わっています。

03年になって『ダイオキシン──神話の終焉』という本が出版されました。ダイオキシンの発ガン性、急性毒性は特別問題視するほどではないとの傍証として、さっそくカネミ油症の事例が利用されています。

焼却由来のダイオキシン対策要求を国が認め、ニュースステーション弾圧に伴うマスコミの自己束縛・世論沈静化のかげで、ダイオキシン特需が粛々と執行されていった過去を振り返ると、油症にダイオキシン関与を国が認めたこと、「神話の終焉」で「猛毒ダイオキシン」とはいいづらくなったこと、国家プロジェクトであるPCB処理事業が控えていることの関連性をついつい想像してしまいます。坂口発言と『ダイオキシン──神話の終焉』の出版、そしてPCB処理事業は、それぞれの思惑や意図とは別に一体のものとして機能し始めている、世間の無関心の中でダイオキシン特需の第二幕が始まっている、と考えてみる必要があるかもしれません。

ところで、広島市環境局からPCB処理場の説明会資料が今年に入って配布されています。それによると、国家プロジェクトは「PCBを保管している中小の事業者のための拠点」であり「大手の各電力会社に対しては、国は事業者責任として自社処理を指導」しており、「中国電力もこれに従ってPCB処理施設を自前で設置する。他の電力会社も既に5カ所のPCB処理施設が稼働中又は建設中」だというのです。

何かの手違いで5拠点だけでは2016年までの処分が不可能になったのかもしれませんが、ストックホルム条約では2028年までの猶予があります。2016年までしか使用しない5拠点にどれほどの税金が再び投入されるのでしょうか。中小企業が保有するだけのPCBしか処分しないとなると「ダイオキシン特需」の二の舞は既に明らかなのかもしれません。

編集/安濃一樹
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