Japana Sociala Forumo
1月31日、ポルトアレグレで開かれていた2005年世界社会フォーラムが最終日を迎えました。世界の各地から集まった数百のNG0と十数万の市民が、平和のスローガンを叫び、大企業の不正を訴え、あるいは歌声を上げながら行進してゆきます。市民のマーチは何キロにも渡り、街道は色とりどりの旗や衣装に埋めつくされ、どこまでもつづく花畑のようです。
世界社会フォーラムは、企業グローバリゼーションを批判し、真のグローバリゼーションを築く運動として2001年に誕生しました。より自由で、より公平で、より平等な社会の実現を目指して、人びとは社会フォーラムで連帯を結び、世界の隅々で活動をつづけています。
世界を改革する力として、社会フォーラムは世界経済フォーラムやG8首脳会議よりも遥かに重要なものですが、テレビや新聞などの主流(企業)メディアは、今年で5回目となる社会フォーラムについて、ほとんど何も報道しません。活発な報道を繰り広げたのは、各国から集まった独立系メディアでした。
社会フォーラムでは、世界の市民が直面するさまざまな問題をテーマとして、数多くのワークショップや会議が開かれます。今回どのような議論があり、どんな成果が得られたのか。それを詳しく知るには、社会フォーラムに参加した団体から報告が出るまで、少し待たなければならないでしょう。
種子の交換
ここでは報告があった二つの成果を紹介します。ひとつは、イラクの占領に反対して、世界中で大規模なデモと集会を行うことが決まりました。そのグローバル活動日となったのが3月19日、アメリカの侵略が始まってからちょうど2年になる日です。すでに30カ国の団体がデモの組織や呼びかけを約束しています。
もうひとつの成果は後に歴史的な勝利と呼ばれるかもしれません。30日、ブラジルの農民組織MST(土地を持たない農民の運動)がベネズエラ政府と協約を結びました。この協約に署名する両国の農民団体や研究機関は、作物の種子を交換して栽培と収穫を繰り返し、種子を再生することができるようになります。
国境を越えてブラジルとベネズエラの農民が種子を交換する。それがどうして世界社会フォーラム運動の大成果といえるのでしょうか。環境問題に関心がある人なら、なるほどと思いつくでしょう。バイオ技術系企業の戦略が農民を苦しめ、環境を脅かしている。それが協約の背景でした。
協約の調印を終えたMSTの代表は「夢が叶った」と喜びを伝え、次のように述べています。
──ベネズエラの人びとが必要とする種子はすべて提供する。さまざまな熱帯品種の大豆も喜んで送ろう。これでベネズエラはモンサント社の大豆に依存することはない──
飢えに苦しむ農業大国
世界社会フォーラムの開催地ポルトアレグレから90キロのところに、農民活動組織MST(土地を持たない農業労働者の運動)の居住地があり、1000人のMST労働者が暮らしています。
1月30日、種子を交換する協約はここで結ばれました。ブラジルはMST代表のほか州知事と政府代表が、ベネズエラは社会フォーラムを訪れていたチェベス大統領が自ら調印しています。
MST代表の言葉は、米モンサント社を始めとする多国籍企業に対する抵抗の宣言でした。
バイオ技術を持つ先進国の企業は、伝子組み換え(GM)作物によって南米諸国など後進国の農業をコントロールしようとしています。その実情を知るために、南米でGM作物をもっとも早く受け入れたアルゼンチンを調べてみましょう。
アルゼンチンは豊かな国土に恵まれ、「世界の穀物倉」と呼ばれるほどの農業大国でした。90年代にGM作物の栽培が本格的に始まると、わずか10年足らずのうちに、アルゼンチンはGM作物の産出国としてはアメリカに次いで世界第2位となります。その過程で食糧難が深刻化し、人びとは十分な食べ物を得られなくなりました。
専門家によると、全人口3800万のうち2000万人が貧困ライン以下の収入しか得られず、600万人が極度の飢えに苦しんでいます。経済が下降し始めた90年から03年のまでに、45万人が十分な食べられないことが原因で死亡しました。毎日、子ども55人、大人35人、老人15人が死んでゆく計算になります。
しかし、アルゼンチンは依然として年7000万トンの穀物を産出する農業大国であることに違いありません。それなのになぜ食糧難に苦しまなければならないのでしょうか。GM作物の栽培によって農業が巨大な輸出産業に変わり、伝統の農業システムが失われてしまったからです。
全農耕地の54%にあたる1400万ヘクタールで大豆が栽培されています。04年には、3400万トンを超える収穫がありました。しかし、その99%がGM大豆です。GM大豆は食用とはなりません。ほとんどが家畜の飼料としてヨーロッパの先進諸国や中国へ輸出されます。
GM大豆を開発した米モンサント社は、大農場と提携してGM大豆を広めていきました。つづいて周辺の中小農場も、GM大豆が高収入を上げるというモンサント社のPRに引かれて、在来種の大豆からGM大豆へと切り替え、あるいは他の作物をすべて刈り取ってまでGM大豆を栽培しました。
中小農場は大農場との競争に勝てません。GM大豆の使用料を払い高価な除草剤を買うために借金を重ね、それが返済できなくなると土地は競売にかけられます。大農場はその土地を買い取り、さらに巨大化してゆきます。地元の警察を取り入れた大農場主が傭兵を使い、小農民を暴力で脅し、村落を襲撃して追い出した上で、土地を奪うということさえ行われました。
こうして地方の小農民たちが土地を失い流浪してゆきます。地域の食料となる作物のほとんどを生産してきたのがこの農民でした。そして、アルゼンチン農業の伝統を受け継ぎ、数多くの作物を育て、さまざまな品種の種子を保っていたのもこの人びとでした。
GM作物は後進国が先進国のために生産する安価な輸出商品です。高度に商業化されたGM農業には、食料を自給する意志も力もありません。
PRキャンペーン
GM作物の進出は大規模なPR(情報のコントロール)から始まります。多国籍企業はPRに数百万ドルを投入し、後進国の政治家や官僚・ジャーナリスト・研究者・コメンテーター・農民そして一般市民へGM作物についての「情報」を提供します。
PRでは、GM作物の危険性に関する情報を隠して、まったく実証されていない優位性だけを宣伝します。いわく、
──GM作物は、在来種より少ない農薬で栽培することができるので、環境に優しい。耕作経費も軽減する。単位面積あたりの収穫量が在来種よりも多く品質も高いため、大きな収益をもたらす──
組織されたロビースト団体が政府に働きかけ、メディアを通じてキャンペーンが展開され、ついには「後進国の農業と経済を改革する切り札としてGM作物の導入が必要だ」というイメージができあがります。
このようなPRは、なにも特別なものではなく、企業が新製品を市場に売り込むときや、政府が新しい政策を立て国民の合意を得たいときに、よく使われる手法です。
しかし、米モンサント社が開発したGM大豆がアルゼンチンで大規模に栽培されるようになると、PRの偽りが明らかになっていきます。
同社がGM大豆と一組にして売り込む除草剤は強い毒性を持ち、どんな雑草にも効果があるという触れこみで、ラウンドアップ(一網打尽)と名づけられました。その毒性から作物自体を守るために、GM作物はラウンドアップ耐性を備えるように遺伝子を操作されています。
しかしラウンドアップの散布をつづけると、耐性を持つようになった雑草がかえって増えました。ほかの除草剤を合わせて、濃度を高めた薬剤ミックスを頻繁に散布するしかなく、在来種を栽培するときよりも2倍の農薬が必要になりました。
毒性の高い薬剤が広大な大豆畑に堆積しながら、周辺の耕地へも拡散してゆきます。すぐにGM大豆の大農場に隣接する中小農場の作物が被害を受けて収穫できなくなりました。ブタやニワトリが死に、子ヤギが死産か奇形で生まれてきます。人への悪影響も確かです。大農園で散布された農薬が風で流れてくると、目が痛くなる。子どもたちの足には発疹が出ます。
1999年、スエーデンの研究者たちが、ラウンドアップの主成分であるグリフォセイトには発ガン性があると報告しました。さらに、併用される除草剤は、24Dやパラクワットなど先進国ではすでに禁止されている農薬です。大量の農薬で栽培されるGM作物や、それを飼料として育てられた家畜を人が食べたとき、健康に障害を起こすことはないのでしょうか。この問題についての研究は、まだなにも始まっていません。
単位面積あたりの収穫量は逆に減少しました。GM大豆は在来種と比べて5%から10%も収穫が少ないという研究報告があります。GM大豆が収穫総量を伸ばしつづけているのは、大農場との競争に敗れ経営難に陥った小農園を買収し、暴力で農民を追い出して土地を奪い、貴重な熱帯森林を切り崩して、莫大な耕作面積を獲得していったからです。
モンサント社のGM大豆はなにもいいところがない欠陥だらけの品種で、PRキャンペーンで流された情報はすべてウソだったことがわかりました。それなのに、なぜGM大豆の栽培が続けられるのでしょうか。それは、モンサント社を始めとする多国籍企業が強大な支配力を持ち、同国の農業をコントロールしているからです。
後進国を侵略する多国籍企業
GM大豆を栽培すると、年ごとに種子を買わなければなりません。使う除草剤もラウンドアップと決められています。GM大豆とラウンドアップの特許(知的所有権)を持ち独占しているのがモンサント社ですから、GM大豆の栽培はモンサント社に依存することになります。さらに、収穫されたGM大豆を買い上げて、販売するのも多国籍企業でした。
市場を独占すれば、企業は価格を自由に設定することができ、大きな利益を得ます。また、GM作物という特定の商品に依存する度合いが強いほど、企業の支配力が高まる。GM作物をめぐる最大の問題はここにあります。
多国籍企業は、アルゼンチンの農業を企業に利益をもたらすシステムに変えてしまいました。アルゼンチンは、家畜の飼料になるGM大豆の栽培に広大な耕地を奪われ、食料となる作物の栽培が激減し、国民の食料を自給することができません。
食料の自給率が低下して、輸入食料に依存するようになると、他国との経済や政治の交渉で不利な立場に追いやられ、ついには国家の独立と統治権さえ脅かされると考えられています。先進諸国は、後進国からダンピングに等しいと批判されても、自国の農産物に巨額の補助金を出し続けています(2001年度、先進29カ国の農業補助金の総額はおよそ3700億ドル)。食料の自給率を高めなければ、国際社会で有利に立ち回れないからです。
日本では、消費者団体や市民グループがGM作物の危険性を訴えていますが、その運動が取り組む問題は、スーパーなどで売られる加工食品の安全性に限られているようです。だから、GM綿花のように食品ではないGM作物が引き起こす問題については関心が低いのが実情でしょう。しかし、GM食品の問題は、多国籍企業の活動が最下流で起こす問題のひとつに過ぎません。企業活動がまず上流で引き起こす問題はあまりにも悲惨です。
インドやインドネシアへGM綿花が進出したとき、モンサント社はPR戦略でGM綿花を「白い金塊」と呼びはやし、必ず高収益が得られると宣伝しました。農民は借金をしてまで、モンサント社から種子を買うようになります。しかし、GM綿花の栽培には、高価な農薬が大量に必要でした。在来種と比べて農薬の経費が20倍になった地域もあります。さらにGM綿花は害虫にも弱く、各地で被害が出ています。そして、世界市場で綿花の価格が下がると、収穫しても耕作経費を回収することさえできなくなりました。
インドでは、借金に苦しみ絶望した農民が2万数千人も自殺しています。インドネシアでは、農民に種子と農薬を買う資金を貸したのがモンサント社の系列会社だったので、借金を返せなくなった農民がモンサント社との契約に縛られ、さらに悪い条件で労働を強いられました。インドの農民は多国籍企業による侵略戦争の犠牲者であり、インドネシアの農民は企業の奴隷にされたと言われました。
GM作物を使った加工食品は安全なのだろうか。だれでも不安を感じます。それがより大きな問題へ近づくきっかけとなるでしょう。問題の核心は、利益の追求だけを目的として後進国を侵略する多国籍企業の活動にあります。
一缶の種子から
このような企業グローバリゼーションを支援する勢力は強大です。アメリカを中心とする先進国の政府、WTOや世界銀行・IMFなどの国際機関、そして莫大な資本と強大な権力を握る多国籍企業が、自由貿易と市場開放の名の下に企業グローバリゼーションを推進しています。
世界社会フォーラムは、企業グローバリゼーションと戦い、より公平な新しい社会を築くために、世界の市民が連帯する運動です。1月30日、社会フォーラムの開催に合わせて、ブラジルとベネズエラの間で種子を交換する協約が結ばれました。調印にあたって、ブラジルMST労働者からベネズエラ大統領チャベスへ手渡された小さなー缶の大豆は、多国籍企業の侵略を阻止する大きな一歩を標す象徴となるでしょう。
編集/安濃一樹
ヤパーナ社会フォーラム
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