Japana Sociala Forumo
楽園の遺伝子汚染
遺伝子組み換え作物(GMO)に
おびやかされるハワイのパパイヤとコーヒー
ハワイの遺伝子組み換え作物
素敵な浜辺、目を奪うばかりの珊瑚礁、そして人なつっこい人たちでハワイは有名ですね。私たちが農業生産に取り組んでいるのは、世界でも一級品のコナコーヒー、パパイヤ、パイナップル、サトウキビ、そして私たちにとって神聖な食べ物であるタロイモです。美しい火山地帯には、地上でもっとも珍しく壊れやすい生態系がいくつも広がっています。野生生物の9割は世界のどこにも見られません。
そんなハワイがいま、どうして遺伝子組み換え(GM)作物の総本山になっているのでしょうか。アメリカで試験栽培がもっとも多く行われている州がハワイで、世界のどの国と比べてもいちばん多いでしょう。2001年までに3275件の試験栽培が行われました。どのように遺伝子が組み換えられ、どこで試験栽培しているのかは公表されません。秘密業務情報と見なされているからです。
市民が何も知らないうちに、庭のとなりで試験栽培が始まる。遺伝子を操作して、殺虫成分を細胞内で作り出せるようにしたトウモロコシの実験かもしれない。そのGMトウモロコシの花粉が風に運ばれ、庭で育てているトウモロコシに異花受粉する……。こういう被害が実際に起こることも考えられます。ハワイはどの大陸からも遠く離れた列島ですから、たとえ実験が失敗しても遺伝子汚染が広がる恐れはないとバイオテク企業は考えているのでしょう。ハワイでは作物が一年中育ち、トウモロコシなら年に3回も収穫することができます。種子を生産する企業にとって絶好の環境です。
問題の始まりは、カタエノ前州知事が投資と雇用を増やそうとして、バイオテク企業の税金を大幅に減らすなど特別な優遇政策を進めたことでした。GM技術の将来性を認めたハワイ大学が、資金を集中して研究に力を入れてゆきます。全米の公立校では予算がもっとも少ない大学のひとつでしたから、研究費を企業から集めようとしていました。このような大学と企業の関係はいたるところで見られ、ますます大きな問題となるでしょう。
でも時代は変わりつつあります。リングル氏が州知事に就任しました。そして広い基盤を持つNGO「GMOフリーハワイ」が草の根運動を進め、GM技術の危険性と問題点を訴えつづけています。
コナコーヒーを守れ!
遺伝子組み換えに反対する運動は、コナコーヒーの農家を支援することから始まりました。いまではハワイ全島のコーヒー農家や加工業者と連帯するようになり、「GMコーヒーはいらない」と声をそろえています。
コナコーヒーの6割が日本とヨーロッパへ輸出されます。残りはアメリカ本土へ出荷され、高級コーヒーとなったり、人気の有機食品となったりします。コーヒー業界は、自分たちの顧客がGMコーヒーを絶対に受け入れないことをよく知っています。
02年、ハワイ島の農民グループが同島の郡議会に働きかけて、北コナと南コナの両地域でGMコーヒーの試験栽培を禁止するよう求めました。後に修正された条例案には、GMコーヒーの試験栽培で「地域協定」を結ぶときにコーヒー業界の代表が参加するという条項が加えられています。
つづく州政府との交渉には、ハワイ全島から強い関心が寄せられました。いまでは業界全体が総意としてGMコーヒーに反対しています。
たった一度の試験栽培で遺伝子が汚染されることもありますから、これ以上はGM作物を試験栽培しないよう、ハワイ州コーヒー保護連合が強く求めています。現にタイでは、GM綿花を1回だけ試験栽培したために綿花の8割が汚染され、国内の試験栽培をいっさい禁止する措置がとられました。
より確かな対策を求めるコーヒー業界は、法制化も視野に入れながら、州の農務局長と協力しています。新しいGM作物が開発される前にその禁止を求める運動が始まりました。これは世界で初めてのことです。
GMパパイヤのたそがれ
80年代後半、コーネル大学のデニス・ゴンサルベス博士とハワイ大学のリチャード・マンシャート博士がGMパパイヤの開発に成功します。果物の遺伝子操作はそれまで成功例がなかったので、GM技術に飛躍的な進歩をもたらしました。98年、博士たちはGMパパイヤをハワイ島で商品化します。
パパイヤ行政委員会は[政府や大学などの研究機関と協力してパパイヤの販売を促進する民間団体で、ハワイのパパイヤがリングスポット・ウイルスの被害を受けたとき、ウイルスに耐性のあるGMパパイヤの開発研究を支援して、もっとも大きな輸出先である]日本の市場を守ろうとしました。
委員会は、日本向けのパパイヤを生産する大農園を守るために、周辺で小さな農園を営む農民たちを説得してGMパパイヤに切り替えさせようとしました。大農園をぐるりとGMパパイヤで囲えば、ウイルスの防御壁になると考えたからです。ハワイ大学の農業相談員が動員され、GMパパイヤについて教育活動が重ねられます。農民たちは、むりやり押しつけられると感じました。
農民たちは抵抗しています。どんな作物をどのように栽培するか、自由に選択したい。自分たちの権利を守るため、パパイヤ自由戦士団というグループを結成するまでになりました。
ウイルスの猛威に苦しんでいたハワイのパパイヤ業界にとって、GMパパイヤは救世主になるはずでした。ところが、この「救世主」が環境に送り出されると、パパイヤ農園がつぎつぎと廃業に追い込まれました。99年に200あった農園が、02年には110に減っています。
GMパパイヤに切り替えた小農園が経営難に陥り、パパイヤをあきらめました。いまでは野菜を栽培しています。従来種パパイヤが1ポンド45〜85セントで取引されるのに対して、GMパパイヤは13〜17セントにしかなりません。これほど価格が低いのは、GMパパイヤを受け入れる市場がほとんどないからです。その一方で[GMパパイヤはカビに弱く]殺菌剤の使用が増えたこともあって、経費は1ポンド当たり35セントに上りました。
パパイヤが汚染される
GMパパイヤによる遺伝子の汚染が広まり、従来種パパイヤが市場価値を失っています。有機栽培の認証を受けていたパパイヤ農園が汚染のために閉鎖されました。普通栽培のパパイヤ農園も、主な市場が日本ですから輸出できなくなる恐れがあります。
GMOフリーハワイは、科学を科学者の手から市民の手に移します。以前は、農園のパパイヤの遺伝子が汚染されているか調べたくても、農民は自分でテストすることができませんでした。いま私たちは簡易テストを使い、ハワイ全島を対象とした実地調査を試みています。テストの結果、ハワイの主な島5つで汚染が広がっていました。
トイ・ラーティさんは被害を受けた数多い農民のひとりです。奥さんといっしょに有機農園を営んで、栽培したパパイヤを自分たちの健康食品店で販売していました。カフェも経営していて、パパイヤスムージーが売り物でした。オアフ島の有機作物市場にも卸していました。
ラーティさんが自分のパパイヤを検査することにしたのは、隣の農園がGMパパイヤを植えたのを心配したからです。検査の結果、ラーティさんの農園には汚染が広まっていたことがわかりました。花粉の飛散による遺伝子汚染でした。
検査の結果が出た日に、ラーティさんはパパイヤを自分の店に出すこともオアフ島に送ることもやめました。パパイヤを売る場所を失った損害は大きく、ラーティさんの怒りはおさまりません。ハワイ大学がGM種子をこの地域に送り込んだばかりに、有機パパイヤの栽培ができなくなった。有機農園の認証を失う恐れさえあります。
たとえパパイヤの木をみんな切り倒したとしても、新しく植える木が遺伝子汚染の危険にさらされます。ラーティさんが、汚染をもたらした人びとの責任を問い補償を求めるのは当然です。しかし、アメリカのGM作物をめぐる裁判では、これまでのところGM作物の特許を持つ側に有利な判決が出ています。
ハワイ諸島全域に拡がる汚染
98年、ハワイ島でGMパパイヤの栽培が始まりました。ハワイ島はパパイヤの大産地で、GMパパイヤもほとんどがここで栽培されています。6年後のいま、ハワイ島だけでなく、マウイ島・モロカイ島・オアフ島・カウアイ島のパパイヤもGMパパイヤの遺伝子に汚染されていることがわかりました。
GMOフリーハワイは、GUS遺伝子テストを使い1年半前から調査を進めています。調査の結果、予想以上の汚染が確認されました。有機栽培のパパイヤ、普通栽培のパパイヤ、家庭栽培のパパイヤから反応が出ました。溶岩地帯に自生しているパパイヤさえも汚染されていたのです。健康食品店にならぶ有機パパイヤからもGM遺伝子が見つかっています。ハワイ島のワイピオ渓谷やカウアイ島のカララウ渓谷という聖なる地でさえ遺伝子の汚染を免れることができませんでした。
GUS遺伝子テストは野外で使われる簡易テストで、より正確なデータを得るためには、高価なPCRテストを研究室で行う必要があります。しかしハワイ大学は、GMパパイヤの栽培を始めてから今日まで、遺伝子汚染について何も調査していません。
5月15日、キャプテン・クック市にあるエイミー・グリーンウェル植物園で、第2回年次種子交換会が開かれたとき、GMOフリーハワイは求めに応じてパパイヤの遺伝子テストを行いました。テストした26件のうち、半数を超える14件が汚染されていたのです。
遺伝子の汚染は、GMパパイヤの花粉が風やミツバチや鳥によって運ばれ、従来種パパイヤに異花受粉して起こりました。また、いまハワイで流通しているパパイヤの種子がすでに汚染されているために、GMパパイヤだとは知らずに栽培していた例も見られます。
生態系をさまようGM遺伝子
ハワイ大学は遺伝子汚染についての追跡調査をまったくしていません。[GMパパイヤの種子から苗木を育て]第二・第三・第四世代のGMパパイヤを栽培したとき、遺伝子に変異が起こらないのか、複数のGM遺伝子を組み合わせた遺伝子カセットが壊れることはないのか、何も調べていない。
GMOフリーハワイでは、賛成派と反対派のどちらからも独立した研究者が汚染の調査研究を計画するように求めています。調査にはバイオテク産業で標準となっているポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)を用い、GMパパイヤがもたらした遺伝子汚染の事態を正確に測定しなければなりません。
バイオテク企業は、いろんな理由をならべてGM作物は環境にやさしいと宣伝しています。たとえば、殺虫剤の使用が少なくてすむという。事実は逆で、GMパパイヤにはブラックスポットというカビが発生しやすいため、毒性のある殺菌剤を散布しなければならず、従来よりもはるかに多くの薬剤が必要です。
GMパパイヤの遺伝子は不安定で、まるでウイルスのように感染してゆきます。異なる生物種の[あいだで遺伝子の伝達する]水平伝達が起こり、土壌や水の中の微生物を汚染しないか、野生生物に危険がないか、だれも知ろうとさえしていません。たとえGMパパイヤの木を一掃できたとしても、その遺伝子カセットはハワイの森林をさまよい、多様な生態系を汚染してゆくのでしょうか。
これまでにわかっただけでも、GMパパイヤについては健康にかかわる問題が三つあります。しかし、調査研究は進められていません。
97年、[アメリカ環境保護庁によって]GMパパイヤはアレルギー性を検証する義務を免除されています。しかし02年、オランダの研究者がWHOの新協定に従って調査したところ、GMパパイヤに[含まれるタンパク質には]アレルギー反応を引き起こす可能性があるとわかりました。
またGMパパイヤは[目的の遺伝子が組み込まれたかを確認するために目印として使われる]抗生物質抵抗性マーカーを含んでいて、テトラサイクリンとネオマイシンとゲンタマイシンに耐性を持ちます。WHOの顧問を務めるロリン・パン博士は、このマーカー遺伝子が人の腸内細菌に水平伝達すると、抗生物質が効かない新しい病気の発生につながる恐れがある、と述べています。
さらにGMパパイヤなどのGM作物には、目的の遺伝子を活性化するプロモーターとしてカリフラワーモザイクウイルスの遺伝子が組み込まれています。近ごろ、このプロモーターが哺乳類の組織に水平伝達することがわかり、細胞の異常増殖との関連性が指摘されています。
市民が守る自然
太平洋農業研究センターの所長となったゴンサルベス博士は、タイやジャマイカ・バングラデシュ・タンザニア・ベネズエラのほか、いくつかの国でGMパパイヤの栽培を始めようとしています。
バイオテク企業は、作物のなかでパパイヤを孤立した作物と見なしてきました。植物の系統からすると、パパイヤには親戚にあたる作物がないからです。私たちが常食する作物でもありません。世界中の人びとにGMパパイヤを食べさせることができれば、次にはGM米(コメ)を送り込むつもりです。
GMパパイヤを受け入れてしまうと、バイオテク企業は技術が歓迎されたとして、すでに研究を進めている新しいGM作物をつぎつぎと密かに栽培してゆくでしょう。
日本のみなさんはGM食品のことをよく知っていて、慎重に拒みつづけています。進んだ考え方ですね。ほんとうに賢い。日本はハワイの農産物を輸入する大市場ですから、みなさんの判断がバイオ技術の将来を大きく左右することになります。
みなさんは環境が傷つけられることを心配してきました。自然を慈しむ心には力があります。驚くほど多様なハワイの生態系がGM作物によってすべて汚染されてしまう前に、みなさんの力を貸してください。
2004年5月
Melanie Bondera
ハワイ島で有機農業を営む。02年からGMOフリーハワイ( www.higean.org ) のメンバーとしてGM技術が食品と農業におよぼす危険性や問題点について教育活動をつづけている。この記事は月刊『自然と人間』04年7月号に掲載された。
著作権(2004年)
原文に関するすべての権利はメラニー・ボンデラが留保する。
( )は原文の挿入語句。または英文略称名の和訳。
[ ]は訳文の補助語句。
【 】は訳者による注釈。
翻訳/荒井雅子・安濃一樹・別処珠樹
編集/安濃一樹
ヤパーナ社会フォーラム
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