Japana Sociala Forumo

郵政民営化について
どうしても気になる点が二つあります

星川 淳

一つは、郵貯と簡保の350兆円がかならずアメリカに流れる懸念。すでに、官民あげての米国債購入に加え、アリコやらアフラックやら米資本の民間保険でがっぽり軍資金を吸い上げられているのに、このうえ郵便局にしまっておいたなけなしのお金まで貢(みつ)ぐ必要はないだろうという素人なりの実感です。でも、小泉や竹中はそれをブッシュたちに約束しているのでしょう。

無駄な公共事業だの原発だのと、郵貯・簡保からまわる財政投融資の使い方がおかしかったのは確かなので、再検討するのは悪くないけれど、小泉流の拙速は危ない。『どうして郵貯がいけないの』(北斗出版)などで早くからこの問題を指摘してきた非戦チームメイトの田中優さんは、むしろ地域郵便局が小口のマイクロファイナンスを担うような方向を提案しているそうです【1】

数年前、利子率が最高だった大昔の郵便貯金が満期を迎えた時期、いきなり手痛い教訓を学ばされた知人がいます。当時はペイオフを控えて個人の資産運用推進キャンペーンがはじまったばかりで、それを真に受けた知人は初体験の証券会社相談のすえ、ITバブル末期の推薦メニューに全額投資。その直後にバブルが弾け、数十年かけて貯めたお金を半減させてしまいました。老後の貴重な蓄えがアメリカのIT仇花企業に消えたのです。もちろん、大々的に個人資産運用を勧めた政府も、銀行・証券会社も、盛んに提携PRを打った新聞・雑誌も、そんなことは知らん顔。

これと同じことが民営化後の郵貯・簡保に起こるのは、ほぼ間違いありません。もうアメリカの保険会社は手ぐすね引いて待っているのですから。

ぼく自身を例にとると、いくら個人で資産運用しろと言われても、株価や為替の動向に日々一喜一憂するような精神状態は好きになれません。それが人間的だとも思わないし、そういう生き方に魅かれないのです。みんながそんなことに憂き身をやつすアメリカ流の株主社会がはたして健全で望ましいのか、大いに疑問を感じます。

むしろ、多少税金は高くても民主的な合意形成にもとづく透明な使い方をして、学校・医療・老後など基本的な暮らしのベースが保障される北欧的・社会民主主義的なソーシャルデザインのほうがしっくりきます。日本人はホリエモンや孫正義タイプより、こういう人のほうが多いのではないでしょうか。

少子化で古典的な北欧型にも無理があるならば、多少の個人リスクと織り合わせるのはしかたありませんが・・・とにかく、生き馬の目を抜く蓄財競争が人生の常態(スタンダード)だなんて願い下げです。やはり基本は、税金・公金の使い方を含めた納税者・有権者の合意によるアカウンタブルで透明な政策立案と実施であって、郵貯・簡保が宝の山だから市場原理に委ねてしまえというのは乱暴すぎます。

ブッシュ共和党系の市場経済原理主義はもうすぐ破綻するでしょう。冷戦終了は資本主義の勝利だとの見方は希望的観測にすぎず、21世紀前半は資本主義と社会主義、環境主義、社会的公正など、さまざまな自治システムの長所を融合しながら新しい社会運営を模索する時代になるはずです。90年代ITバブル期のアメリカ的経営を金科玉条とする小泉民営化の議論は、よくよく眉に唾をつけて聞く必要があります。

もう一つは民業モラルの問題。公務員のモラル低下がひどいので、あまり説得力がないと思われるかもしれませんが、わが家の近所で起こった次のような地方(離島)の実例を考えてみてください。ただし、危害を避けるために多少ボカします。

A夫人が手塩にかけた花を、B宅配業者に頼んで知り合いに送りました。集荷に来たB宅配業者の配達員は、高価で珍しい花がたくさんあるA夫人の温室を見て羨望を抱きます。先方に届いた荷物を確認してもらうと、通気用にあけた箱の穴から少量の花が抜き取られていました。それを知ったA夫人は、B宅配業者の島内支所に電話で苦情を伝えましたが、その配達員は支所長お気に入りで採用したばかりだったため、相手にされません。

それどころか、A夫人の留守中に温室が荒らされるようになります。じつは、その配達員は素行が悪く犯罪歴もあり、他の仕事を解雇されてB宅配業者の支所長に拾われたのです。近所の人たちに聞いてみると、支所長自身も暴力団系のつきあいを噂される人でした。けれども、小さな島ではその種の人たちに表立って文句を言うことはタブーです。たとえB宅配業者の本社に通報しても、かえって苦情を入れた事実が現場に伝わり、支所長と配達員が仕返しに出てくる恐れがあります。

C宅配業者という選択肢もあるのですが、そちらの配達員は地域を二分した町長選挙でA夫人と敵対したため集荷をいやがり、かといってわざわざ最寄りの委託店に運んでも、店番の金髪ピアス少女は料金表の都道府県すら見分けられない頼りなさ。結局、ご主人に先立たれて独り暮らしのA夫人は泣き寝入りするしかなく、昔どおり少しでも安心な郵便局を使うことにしました。

地方における民間企業の雇用実態は、これに近い場合が少なくありません。郵便局員の公務員としての自負と、それに対して長年培われた人びとの信頼が、信書や大切な荷物の委託配送というライフラインをなんとか維持してきたのです。郵政公社がただのD宅配業者にすぎなくなったり、信書・宅配業務から完全撤退してしまったりしたとき、市場の競争原理がうまく機能しにくい一部の僻地は無法地帯と化すでしょう。

郵政族の既得権益を守る政治家たちを応援するつもりはありませんが、こうしたリスクの実感から、小泉が急ぐ郵政民営化には反対です。

2005年4月10日 星川 淳@屋久島発 インナーネットソース #107 http://blog.melma.com/00067106/20050410172511

【1】田中優『環境破壊のメカニズム──地球に暮らす地域の知恵』北斗出版、「郵貯・財政投融資のどこが問題か」、258ページ。http://www.th-box.com/honkomi2/hokuto/bookl/303.html

編集/安濃一樹
ヤパーナ社会フォーラム
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