Japana Sociala Forumo
2003年 4月13日
チョムスキーが語る 第二部
ノーム・チョムスキー
インタビュアー/マイケル・アルバート
イラクの都市や街では、路上で歓声を上げている人びとがいます。平和運動が間違っていたことになりませんか。
歓声が聞こえるまでずいぶん時間がかかりましたね。街頭にでた人びとの数も限られていた。私にはそれが意外で、驚いたくらいです。まともな人なら誰でも、独裁者がいなくなったことを喜ぶだろうし、これで経済制裁が終わると安心するでしょう。イラク人ならなおさらです。
平和運動を進めた人びとも、同じこと求めていました。少なくとも私が知っている各グループは経済制裁に反対しつづけてきた。制裁によって、イラク社会が崩壊していったし、民衆が蜂起する可能性が奪われたからです。イラク国内の勢力が決起すれば、フセイン政権を倒していたことでしょう。いまワシントンで政権を握っている者たちは[レーガン=初代ブッシュの両政権に加わっていた12年間に]残虐な殺人者どもを支援していました。ああした独裁者たちはもういません。サダム・フセインも、同じ末路をたどっていたはずです。
アメリカ政府ではなくイラクの人びとがイラクを治めるべきだと、平和運動は主張していました。この主張は今も変わらないし、これからも続けなければならない。イラクの統治問題について、運動が及ぼす影響は無視できないものになるでしょう。
[この他にも人びとを突き動かした事実があります。]戦争がイラクの人びとにもたらす災害がどんなものになるか、まったく考えられていなかったこと。この戦争は忌まわしい戦略の始まりにすぎず、イラクが「テストケース」にされたこと。戦争に反対する人びとは、当然こうした事実に驚き怒りを感じていました。当然のことです。
ここで二つの基本問題が依然として残っています。
1)だれがイラクを統治するか。イラク人か。それともブッシュのお仲間がテキサス州クロウフォードから乗り込んでくるのか。
2)アメリカの市民がどう判断するか。権力の座にかろうじて踏みとどまる反動的な小派閥が、国内政策と対外政策を進めるのを、アメリカ市民は受け入れるのか。
大量破壊兵器(WMD)はまだ何も見つかっていません。ブッシュが戦争を始めた理由には根拠がなかったことになりますか。
それはブッシュたちの言葉をまともに信じていたらの話です。でも、フライシャー報道官が近ごろ伝えていることからすると、首脳陣はまだ芝居をつづけるらしい。
実際に何か見つけるかもしれませんよ。あり得ないことではない。そうしたら、この戦争は正しかったのだと声高にいいふらすでしょう。もし見つけられなければ、WMD問題を「消滅」させればいい。いつもの手口でね。
WMDが見つかって、イラク軍のものだと確認されたとしましょう。すると、平和運動は始めから間違いだったことになりますか。
論理的にいって、それは不可能です。平和運動が立てる対策なり見解は、その時までに確認できた事実と、納得できる情報に基づいて決めるものです。後になって発見されることを基にして、今の時点で判断することはできませんよ。これは初歩的なことです。
この侵略の結果として、イラクに民主主義が成立すると思いますか。
それは「民主主義」をどう考えるかによります。ブッシュの広報担当チームは、なにか形式にかなった民主主義を作り上げたいのでしょう。もちろん、実質が伴わないようにした上での話です。彼らが本気で民主制を求めることなど想像もできません。
もし、人口の過半数を占めるシーア派アラブ人が、[議会に議席を獲得して]本当の意味で発言力を手にしたらどうなるか。おそらく彼らは、中東諸国のシーア派とともにイランと緊密な関係を結ぼうとするでしょう。ブッシュたちがそれを許すはずがない。
また、2番目に大きい人口を持つクルド人が発言力を得たらどうなるでしょうか。クルド人は共和制の中で自治国家の樹立を目指すと考えられます。しかし、クルド人の独立こそ、トルコ政府が最も恐れていることです。アメリカ政府は、この地域で戦略を展開するために、トルコを重要な基地としています。[トルコとの同盟関係が大切]だからクルド人の独立を認めはしません。ついこの前、アメリカのエリートたちが、さんざんトルコを叱りつけたからといって、惑わされてはいけない。
あの時、トルコ政府は95%の国民が支持していた[イラク侵略に反対するという]立場を受け入れました。エリートたちにとって、トルコ政府のこうした対応はまさに犯罪行為です。ヒステリックな彼らの反応に、民主主義に対する深い憎しみを見ることができます。[イラクに民主主義を実現する戦いであると]彼らがいくら言葉を飾り立てても、まともな人間なら信じない。そのもう一つの理由がこれです。
ブッシュ政権には中東諸国を民主化するつもりなどありません。きちんと機能する民主制ができると、アメリカのヘゲモニーに都合の悪い事態を招くことになるからです。アメリカの「裏庭」[といわれる中米やカリブ海諸国]の過去一世紀にわたる歴史が、これをよく物語っています。
イラク侵略は、世界にどんなメッセージを与えましたか。各国の政府にとって、この戦争が意味するものはなんでしょう。
世界が受け取ったメッセージはこういうものです。
──ブッシュ政権は、自分たちの『国家安全保障戦略』を真剣に受け止めろ、イラクがその「テストケース」だといっている──
──ブッシュ政権は、絶対的な優位を保つただ一つの領域である軍事力で、この世界を支配するつもりだ、それも永久に──
もうひとつ、もっと具体的なメッセージが届いています。イラクと北朝鮮が別扱いにされたからです。
──アメリカからの攻撃を避けるためには、確かな抑止力を持つのがいい──
多くのエリートたちが予測していることですが、[イラク侵略]の結果として、大量破壊兵器を持つ国やテロ組織が増えます。テロ活動が、さまざまな形をとりながら広まってゆくでしょう。テロリズムは、アメリカ政府に対する恐怖と憎悪から生まれます。アメリカ政府こそが、世界平和に対する最大の脅威だと見なされている。この侵略が始まる前から、すでにそうでした。
[WMDやテロは昔からあるけれど]今となっては実に深刻な問題です。平和を築くことができるだろうかと考えてみる。するとすぐに、人類は果たして生き残ることができるだろうかと考え始めることになるでしょう。それほどの破壊や殺戮を可能にする手段が広まっているからです。
アメリカのメディアが果たした役割について尋ねます。メディアは議論の幅を狭め、武力行使を正当化して、戦争を推し進めたと言えるでしょうか。
メディアは、政府のプロパガンダを何の確認もせずに報道しつづけました。イラクがアメリカの安全保障を脅かしているとか、9・11や他のテロ事件に関わっていたという報道などがそうです。新聞社やテレビ局の中には、自分たちでさらに尾ひれをつけていたところもあった。その他のメディアも、ただ右から左へプロパガンダを流していただけです。
メディアの影響力は凄まじいもので、世論調査の結果を大きく動かしました。いつものことです。メディアでの議論は、あいかわらず「実際的な問題」に限られていたでしょう。たとえば、──アメリカ政府は、計画を遂行する上で生じる負担や損害を、国民が容認する程度にまで抑えることができるか──とかね。
いざ戦争が始まると、メディアは恥ずかしげもなく、母国チームに大声援を送った。これには世界中の人びとが驚き呆れ、恐怖さえ感じました。
今の政策をつづけることができるとしたら、ブッシュと彼の一派は何を次の目標にしてくるでしょうか。
次の標的はシリアとイランになるだろうと、彼らが公言しています。それには多分、イラクに強力な米軍基地を置く必要があるでしょう。イラクに実質のある民主制がもたらされることはないという、もう一つの理由です。イランについては、ここしばらく確かな情報が伝えられています。アメリカと(トルコ、イスラエルなどの)連合国が、イランの分裂を目指して準備を進めているというものです。
他にも標的になりそうなところがあるでしょう。南米のアンデス地方[ベネズエラ・コロンビア・エクアドルなどの諸国]が条件にぴったり合います。ここには石油をはじめ天然資源が豊富にある。どこも内政が混乱している。[アメリカにとって]危険な民衆運動を鎮めることができないからです。そして、この地方を囲むようにして、周辺の諸国に米軍基地があり、兵力の配備はすでに済んでいる。もちろん、ここ以外にも候補地はあると思います。
ブッシュたちの政策を阻もうとする勢力が今ありますか。それともこれから現れるのでしょうか。
国内の抵抗こそ、彼らにとって最大の障害です。だが、どうなるかは、私たちアメリカ市民の行動にかかっています。
市民の平和運動からどんな印象を受けましたか。これから彼らは目標をどう立てていくべきでしょうか。
アメリカの平和運動は、まったく前例がないほどの盛り上がりを見せています。運動の規模が大きく、勢いがある。参加する人びとの結束が堅くて、決してくじけない。このことについては、前にあなたと話をしましたね。過去40年間の市民運動について、少しでも知っている者なら誰でも、この事実を認めるでしょう。
運動が次に持つべき目標はいくつかあります。イラクがイラク人によって統治されるように働きかけること。アメリカがイラクに巨額の賠償金を支払うように訴えること。これは、過去20年間にアメリカが行ってきたこと(サダム・フセインに対する援助、ふたつの戦争、そして戦争よりも遥かに多くの死者と損害を出した経済制裁)に対する賠償です。しかし、アメリカ政府がこれほど誠実だとは思えないなら、巨額の援助金を出すように要求するべきでしょう。援助金は、イラク人が自分たちで判断して、自分たちのために使うものです。私たちの納めた税金が、[イラクへの援助金という名目で]米ハリバートン社や米ベクテル社へ流れるようではいけない。
まだ、大切な目標があります。『国家安全保障戦略』で生まれ、イラクという試験管で培養された危険きわまりない政策に歯止めをかけること。そして、これに関連して、戦争で大もうけができると喜んでいる武器商人たちの取引を阻むこと。武器の輸出によっても、恐怖と危機が世界に広まってゆくからです。
しかし、こうした活動はほんの始まりに過ぎません。平和運動は、正義を求めるグローバルな運動と堅く結びついています。この運動は[企業グローバリゼーションに反対するもので]、当然のことですが、遠大で広範囲にわたる目標を持っています。だから、反戦だけに限られたものではない。
イラク侵略と企業グローバリゼーションにはどんな関係があると考えていますか。また、企業グローバリゼーションに反対する運動と平和運動にはどんな結びつきがありますか。
イラク侵略[計画]は、企業グローバリゼーションを進める中枢勢力から強い反発を受けました。1月にダボスで開かれた世界経済フォーラムで、パウエルがこの戦争について発言した時のことです。誰もついてこないとしてもアメリカが「先導して」戦争を行うと、じつにはっきりと言い放った。すると各国の代表から反対の声がわき起こりました。その声が大きくて、パウエルは壇上から引きずり降ろされたようなものです。それほど抵抗が激しかった。いや、イギリスの首相は別ですよ。ブレアは救いようがありません。
[企業グローバリゼーションに反対して]正義の実現を求める世界運動と平和運動とは、とても深く結びついています。あらためて説明する必要もないくらいです。ただし、このふたつの運動がどうして結びつくのか、私たちなりに確かめてみるべきでしょう。忘れてはならないのは[企業グローバリゼーションを]計画する人びとが、[企業利益のためのグローバル化と、戦争や暴力とのあいだに]密接な関係があると知っている、ということです。
この人びとは次のように予測しています。彼らが意図する「グローバル化」は計画どおりに進むけれど、(経済がさらに低迷して、おもに貧しい人びとが苦しむ)「慢性金融不安」と(あまねく広まるというグローバル化の真意とは逆に、富が一部に集中する)「経済格差の拡大」をもたらす。予測はまだつづきます。「低迷する経済と不安定な政治情勢に苦しみ、異文化に接して疎外感を味わった人びとが、民族や思想・宗教を背景として暴力をともなう過激な行動に傾倒してゆく」。この過激な行動のほとんどが、アメリカに向けられます。テロ攻撃に他なりません。
アメリカ軍の戦略家たちも同じような予測を立て、それが軍事予算を急増させるための論拠になりました。彼らの計画には、宇宙空間の軍事化が含まれています。世界中の国々がこれをくい止めようとするけれど、アメリカ市民の目からこの事実が隠されているかぎり、成功の望みは薄いでしょう。私たちアメリカ市民には、[事実を知り]計画を止める責任があります。他の誰よりも重い責任です。
こうした事情から、去年の10月にあった重大な出来事がいくつか報道されなかったのでしょう。出来事とはアメリカの国連での投票です。二つの国連決議案に反対票を投じたのは、(イスラエルを除けば)アメリカだけでした。ひとつは、生物兵器を禁じた1925年のジュネーブ協定を再確認するもの。もうひとつが、宇宙を軍事目的に使用することを禁じた1967年の宇宙条約を強化する決議案でした。条約は、宇宙空間に兵器を配備することを禁じています。人類を破滅させかねないからです。
私たちの運動は、いつの時でも、いま世界で何が起こっているかを知ることから始まります。そして問題を解決するために何かをする。私たちにはできる。他の誰よりもうまくできるはずです。私たちはこんなに恵まれ、力があり、自由でいられる。だからこそ責任が重いのです。
ああ、これはもうよくわかっていることでしたね。
第一部「イラク侵略戦争の真実」へもどる
Noam Chomsky and Michael Albert, “Noam Chomsky Interviewed,” ZNet VisionStrategy, April 13, 2003.
http://www.zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=41&ItemID=3450
著作権(2003年4月)
原文に関するすべての権利はチョムスキーとアルバートが留保する。
翻訳に際しては、Zネットを通じて両人の許可を得た。
( )は原文の挿入語句。または英文略称名の和訳。
[ ]は訳文の補助語句。
訳/安濃一樹・別処珠樹(2003年4月19日)
編集/安濃一樹
ヤパーナ社会フォーラム
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