Japana Sociala Forumo
2003年 3月22日
ノーム・チョムスキー
インタビュアー/デイビッド・バーサミアン
Q アメリカのイラク侵略と占領は何を意味するのでしょう。湾岸地域ではどう受け止められていますか。
A 湾岸だけでなく、世界中が侵略の意味を正しく理解していると思いますよ。アメリカの狙いは、武力行使の「新しい規範」を打ち立てることにある。イラクはいわば、そのための簡単なテストケースです。
去年の九月、この「規範」の基本路線が発表されました。『アメリカ合衆国国家安全保障戦略』という文書です。世界への武力行使をめぐって驚くほど極端なドクトリンがここに宣言されています。公式文書としては前例がありません。
同じころ、イラク戦争を鼓舞する機運が生まれています。新しいドクトリンの宣言と時期を同じくしていたことは、誰の目にも明らかですね。同時に、中間選挙キャンペーンも始まっている。すべてつながっていたわけです。
新しいドクトリンとは、よくいわれるように国連憲章を拡大解釈して、先制攻撃を主張したものではありません。憲章や国際法から大きくかけ離れたことを宣言したものです。これを予防戦争といいます。
武力で世界を支配するというのが、このドクトリンでした。支配に挑戦する動きがあるとアメリカが見なせば、それが脅威にならないうちに粉砕する。アメリカにはその権利があるという。何年か先に挑戦してくるかもしれないと見なしただけで攻撃できる。挑戦が想像の産物だろうと、でっちあげられたものであろうと、何でもかまわない。これが予防戦争です。先制攻撃どころの話ではない。
ドクトリンを宣言して「新しい規範」と呼べるものを立てられるのは、強大な力を持つ国家だけです。だからインドが、非道な残虐行為を止めさせるためにパキスタンを侵略したとしても、それが規範になることはない。しかし、どんなに根拠が疑わしくても、アメリカがセルビアを爆撃すれば世界の規範になります。力とはそういうものです。
新しい規範を確立したいなら、何かしないといけない。いちばん簡単な方法は、まったく抵抗できない相手を敵に選ぶことです。それを史上最強の軍事力で、完膚無きまでにたたきのめす。よそはともかく、自国の市民にはもっともらしく見せたいから、市民を怖がらせる必要があります。
だから無力な相手を、生存を脅かす恐るべき敵に仕立て上げなければなりません。敵は9・11事件を画策したとか、今にもまた攻撃をしかけて来ようとしているとか、いろいろと宣伝する。
こうして、去年九月から[政府とメディアによる]大規模な工作が続けられました。それが功を奏して、世界中でアメリカ人だけが、こう信じ込むようになった。
──サダム・フセインは残虐な怪物であるばかりか、自分たちの生命を脅かす存在である──
10月の下院決議も同じ論調でした。その後も、こうした例は枚挙にいとまがない。世論調査にその効果が表れています。アメリカ市民のほぼ半数が、9・11事件の首謀者はサダム・フセインだと信じるようになりました。
要するに、すべてがつながっている。まずドクトリンを宣言する。簡単なテストケースで規範を確立する。パニック状態に追いやられた市民は、世界で誰も信じていない幻想を信じ込む。そして、正当防衛だからと武力行使を喜んで支持する。いったん幻想を信じてしまえば、侵略でも正当防衛に思えてくるものです。
このように、イラク侵略は侵略戦争の典型だと言えます。侵略はここで終わりません。射程を拡大して、つぎの標的へと移るでしょう。イラクという簡単なケースをクリアすれば、もっと困難なケースも考えられるようになります。
戦争反対の声が、世界中で圧倒的な高まりを見せている。侵略戦争の意味がわかっているからです。イラク攻撃だけで終わりはしない。アメリカが世界に突きつけた言葉を、みんなよく理解しています。
──用心するがいい、今からそっちへ行くぞ──
実にはっきりした宣言です。だから世界の大多数の市民が、アメリカこそ世界平和に対する最大の脅威だと見なすようになった。ジョージ・ブッシュのおかげです。彼はたった1年でアメリカを変えた。皆にひどく怖がられ、嫌われ、憎まれるほどの国にしてしまいました。
Q 1月末にポルト・アレグレで開かれた世界社会フォーラムで、あなたは講演しています。ブッシュと側近たちのことを「過激なナショナリスト」と評して、「帝国的な暴力」をふるっていると述べました。ワシントンの現政権は、これまでの政権と本質が違っていますか。
A 歴史が参考になります。アメリカの政治史を見渡すと、今の政権は[保守派のなかでも過激な一派だから]最右翼に位置している。正反対の左端にある政権を見てみましょうか。リベラル派ケネディ政権です。これ以上は左へいけない。
1963年、ケネディ政権はドクトリンを発表しています。ブッシュの『国家安全保障戦略』とさほど違わないものでした。
同じ年に、ディーン・アチソンがアメリカ国際法学会で講義をしています。ケネディの上席顧問で、政界の長老として人望の厚い人物でした。ちょうどこんな言い方で、彼は学会員たちを指導しました。
──アメリカの地位や威信・権威に挑戦があれば、対処するのに法的障害など何もない──
長老は何の話をしていたのか。キューバに対するテロ攻撃と経済戦争に他なりません。講義のタイミングが重要です。世界を核戦争の間際まで追い詰めた、あのキューバ・ミサイル危機のすぐ後のことでした。
アメリカが仕掛けた大規模な国際テロで、ミサイル危機が起きたと考えていい。テロ攻撃の狙いは、今でいう「体制変革」です。それが、ソ連からキューバへミサイルが送られた第一の理由でした。
危機の直後、ケネディは国際テロをさらにエスカレートさせています。そしてアチソンは、米国には予防戦争をする権利があると国際法学会に訓示した。脅威にはほど遠くても、アメリカの地位や威信を傷つけようとしただけで攻撃すると言い切った。去年9月のブッシュ・ドクトリンよりむしろ過激なくらいです。
ただ、これはディーン・アチソン個人が見解を述べたもので、公式の政策発表ではなかった。こういう宣言の仕方は初めてではないし、その後もずっと続けられてきました。だから去年9月のドクトリンがどれほど異常だったかわかるでしょう。高官個人の発言ではなく、正式の政策として臆面もなく宣言されたからです。
Q 平和を訴えるデモや集会で「石油のために血を流すな」というスローガンをよく聞きました。石油にまつわる諸問題がイラク攻撃と占領へと駆り立てたと指摘されています。アメリカの戦略にとって、石油はどれほど重要な意味を持つのでしょうか。
A 石油は戦略の中核です。疑問の余地はない。まともな人間なら疑いはしないでしょう。湾岸地域のエネルギー資源は産出量が世界最大です。第2次大戦が終わってからずっとそうだったし、少なくともあと一世代は、今の状況を維持するだろうと考えられます。
この地域は、経済と戦略上の力を生みだす大きな源泉です。イラクは、ちょうどその中心に位置する。石油埋蔵量は世界第1位だし、採掘や輸送が容易で、生産コストも安い。イラクを支配すれば、世界の石油価格と生産量を決定する上で、たいへん有利な地位が得られます。安からず高からずの水準に石油価格を維持する。決定権を握って、OPECを徐々に弱体化させながら、全世界に影響を及ぼしてゆく。こうした戦略も、第二次大戦からずっと変わっていません。
油田を開発して石油を自由に輸入できる権利が重要なのではない。アメリカは、中東の石油を是が非でも手に入れたいと考えてはいません。本当に重要なのは、石油を支配することです。これが侵略の背景にある。イラクが中央アフリカのどこかだったら、テストケースに選ばれなかったでしょう。湾岸地域ほど重大な意味を持たない中央アジアなど、他の産油地域の場合も同じです。アメリカの戦略と石油は結びついています。
しかし石油だけでは侵略のタイミングが説明できません。なぜ今なのか。湾岸の石油が重要なのは昔からで、今に始まったことではないからです。
Q 1945年の国務省資料に、中東の石油についてこう書いてあります。
──[アラビア半島とペルシャ湾岸は]戦略上の力を生む大きな源泉であり、歴史上で最も高価な戦利品の一つである──
アメリカの石油輸入は15%がベネズエラからです。コロンビアとナイジェリアからも輸入しています。この三国はどれも、ワシントンから見れば問題のある地域ではないでしょうか。ウゴ・チャベス大統領のベネズエラでは、国内勢力の深刻な対立が続いています。コロンビアは文字どおり内戦状態です。ナイジェリアでも反乱が起きている。アメリカへの石油供給が危機にさらされることになりますが、戦略に関連してくるでしょうか。
A 密接に関連しています。アメリカは三国の石油を確保するつもりです。中東でエネルギー資源の支配を目指す。その一方で、エネルギー資源の輸入は大西洋周辺の安定した諸地域に依存する。
大西洋周辺地域とは、ここでは特にアフリカ西岸と南米を指すけれど、アメリカはこの広域をほぼ完全に制圧しています。でも、湾岸は制圧できていない。中東は政治情勢が難しい地域です。
だから、担当部局の見通しはこうなる。中東の石油を支配する。同時に、指摘された三国をふくむ大西洋周辺の石油を自由に輸入できるように確保しておく。この諸地域にアメリカに服従しない政府ができたり、また何らかの混乱がつづいたりすると、重大な脅威と見なされます。
だからイラク侵略と同じことが、ここで繰り返される可能性は高い。特にイラクでの作戦が[ラムズフェルドやウォルフォヴィッツなど]ペンタゴン文民組の思い通りにいった場合には、十分に考えられます。たいした戦闘もなく、わけなく勝利をおさめ、「民主的」と呼ばれる政権を発足させる。これといった大惨事もない。そううまくいけば、意を強くして次のステップに向かうことでしょう。
次の段階には、いくつか可能性が考えられます。ひとつは、いま話した南米のアンデス地域です。ここを囲むようにして、すでに米軍基地がいくつも配置されている。アンデスにも部隊が進出しています。コロンビアとベネズエラは、どちらも重要な産油国です。特にベネズエラの生産量は大きい。他にも産油国はありますよ。たとえばエクアドル。ブラジルだってそうです。
アメリカの「新しい規範」が世界に受け入れられれば、予防戦争のキャンペーンは次の段階へ進みます。その時、アンデス地域が標的となる可能性は高いでしょう。
もう一つの可能性はイランです。
Q そのイランについて質問します。ブッシュによると、イスラエル首相は「平和の人」ということになっていますね。しかし、イラクを片付けた暁にはイランを侵略すべしとアメリカに注進に及んだのが、他ならぬシャロンでした。イランは悪の枢軸と名指しされ、石油の埋蔵量も多い。やはりアメリカはイランを侵略するのでしょうか。
A イスラエルにとって、以前からずっとイラクはたいした問題ではなかった。我々の敵じゃない、というところでしょう。でもイランとなると話は別です。軍事と経済の両面でとても大きな力を持っていますから。イスラエルはもう何年も、イランに取りかかるようアメリカをせかしてきました。イスラエルにとって、イランは攻撃するには大きすぎる。だから、大御所にご登場願いたいということです。
しかし、もう戦争は始まっていると見るのがいいでしょう。トルコ東部には巨大な米軍基地がいくつもあります。1年前の報告では、イスラエル空軍の10%以上がそこに常駐している。また、トルコとイランの国境でイスラエル空軍が偵察飛行を行っているとも報告されています。
さらに信頼できる筋によると、イラン北部に居住するアゼリー人 [アゼルバイジャン人] のナショナリズム勢力に対してアメリカとトルコ・イスラエルが工作をつづけている。この地方と隣のアゼルバイジャン共和国との連携を深めるのが目的です。
このように、アメリカ=トルコ=イスラエルの枢軸らしきものがあって、イランに対抗しています。三国の最終目標は、イランの分裂かもしれない。あるいは軍事攻撃になるでしょうか。
ただし攻撃するのは、イランには防衛能力がほとんどないと誰もが判断できるようになってからです。反撃できる国を侵略したりしません。
Q アメリカ軍はアフガンやイラクに侵攻しているし、トルコと中央アジアにも基地がある。イランは文字どおり包囲されています。イラン政権は核兵器をまだ持っていないかもしれない。しかしこういう客観情勢のもとでは、防衛のために開発する可能性がないでしょうか。
A 当然あるでしょう。情報は限られていますが、重要な証拠といえるものがあります。イラクのオシラクにあった原子炉を81年にイスラエルが爆撃しました。この事件がイラクを刺激して、核兵器開発計画に着手させてしまったらしい。
オシラクの原子力施設は建設中で、それが何のための施設なのか誰も知りませんでした。爆撃の後、ハーバード大学の(おそらく物理学部長だった)著名な研究者が現地を調べ、科学分野では一流の英ネイチャー誌にレポートを発表しました。核物理学の専門家である彼が、発電所だったと報告している。
また、確認はできなものの、イラクから亡命した情報筋が、べつに重要なことは何も行われていなかったと証言しています。イラクは核兵器を作ってみようと面白半分に考えていたかもしれないけれど、オシラク原発では何もなかった。証言によると、イスラエルの爆撃がきっかけとなって、核兵器の開発計画を進めること。
もちろん、裏づけはとれません。でも証拠の示すところは証言と一致します。事実だと断定できないにしても、ありうる話です。
イランの核兵器開発も大いにありうる。アメリカが「おい、これから攻撃するぞ」と脅します。脅された国は、通常兵器では防衛できないと分かっている。これは、大量破壊兵器を開発しろ、テロのネットワークをつくれと命じているのと同じです。明々白々でしょう。だからCIAなどが、大量破壊兵器は拡散しテロ活動も活発になると予言するわけです。
Q イラク戦争とその後の占領はパレスチナ人にとってどういう意味があるでしょうか。
A 大打撃です。
Q 「和平のロードマップ」はどうなるのですか。
A あのブッシュの演説は読むと面白い。
ジャーナリズムの世界にはルールが色々あります。どうして出来上がったのかよくわからないけれど、一貫して守られているルールがひとつある。ジョージ・ブッシュのことを書く時は、見出しで彼の「ビジョン」に触れ、記事で「ドリーム」に言及しなければならないというルールです。右隣りには遠くを見つめる彼の写真が載る。
いつかどこかにパレスチナ国家を作るのもジョージ・ブッシュの「ビジョン」だし「ドリーム」です。どこに作るとは言っていません。たぶん砂漠のまん中に作るのでしょう。それをすばらしい構想として崇拝し、賛美する。これがジャーナリストの習慣になっています。5月21日、米ウォールストリート・ジャーナル紙のトップ記事には「ビジョン」と「ドリーム」という単語が10回も登場したと思います。
アメリカを除いて世界の国々はほとんど例外なく、[イスラエルとパレスチナの抗争を終わらせるために]実現可能な解決策を模索してきました。こうした努力を阻むようなことはもう完全に止めにしよう。そうブッシュがいうのなら、ほんとうにビジョンとかドリームと呼べるかもしれない。これまで25年から30年のあいだ、政治解決をずっと阻みつづけてきたのがアメリカだからです。
しかしブッシュ政権は、阻むだけでは足りず、世界の努力を水の泡にするような政策を打ち出しました。時にまったく極端なやり方に走った。あまり過激だったので報道されていません。
たとえば去年12月の国連会議で、ブッシュ政権はアメリカのエルサレム政策を初めて逆転させています。それまでは、少なくとも原則として、1968年の安保理決議を守ってきました。東エルサレムの占領と併合を止めて、入植地政策を撤回するようイスラエルに命じた決議です。
そして去年12月に初めてブッシュ政権が、歴代政権の政策をひっくり返した。有効な政治解決の可能性を無にしようとする数多いケースの一つでした。
ごまかすために、これを「ビジョン」と称する。アメリカが指導力を示して、この「ビジョン」を追求するという。少しでも歴史に注意を払う人なら知っているように、事実はそうじゃない。ヨーロッパとアラブの国々はこの問題で努力を重ねてきた。その永年の努力をアメリカが踏みにじる。前を歩く人に後ろから飛びついて、地面に叩きつけるようなものです。
シャロンは偉大な政治家だと今アメリカで考えられているけれど、結局は、ここ50年間で世界有数のテロ司令官の一人に過ぎません。その彼が大きな賞賛を受けるのは興味深い現象です。これでまたひとつ[政府とメディアによる] プロパガンダの成果が明らかになりました。こうした話はすべてがプロパガンダで、危険な作り話です。
3月中旬、ブッシュが中東政策を発表しました。アラブとイスラエルの問題で、ブッシュが重要な所信表明をするのは初めてだと言われたものです。演説は大きな見出しで報道された。彼の経歴の中でも、意味のある演説はこれが初めてでしたね。
読んでみると、たった一行を除いて決まり文句の連続です。目を凝らすと、その一行が彼のいうロードマップだった。
──和平プロセスが進めば、イスラエルは新しい入植地計画を停止すべきである──
これはどういう意味か。ブッシュが和平プロセスは十分に進んだと認めるまで、といっても無限に遠い未来でしょうけれど、イスラエルは入植地を作りつづけることができる。これまでの政策を覆すものです。
少なくとも公式には、非合法な入植地を拡大する計画にアメリカは反対してきました。政治解決を不可能にするからです。しかし今ではブッシュが反対のことをいう。
──さあ行ってそこに住みなさい。和平プロセスが十分に進んだと、私たちがなんとか認めるまで、入植地の開発経費はアメリカが払いつづけますから──
こうして、パレスチナへの攻撃がさらに増える。国際法が無視される。和平の可能性は遠のく。「和平のロードマップ」は褒め称えられてばかりです。でもよく読めば、本当の姿が見えてきますよ。
Q イラク戦争に対する抗議や抵抗の声が「未曾有」の大きさだと言ってましたね。まだ戦争が始まらない段階で、あれほど多くの人が反対したことはありません。これから人びとはどう抵抗していくのでしょう。
A 人のすることを予言する方法なんて判りません。人びとが決めた通りに運動は進んで行くんでしょうね。可能性は色々あります。抵抗運動は強まるでしょう。以前よりも広く深い問題と取り組んでいる。しかし困難さも増しています。
帝国の野望を満たす長期計画に反対するのは難しい。軍事攻撃に反対する運動を組織するほうが心理的にずっとたやすい。イラク攻撃は野望の一段階です。計画は次の段階に進み、新しい攻撃が待っている。
長期計画に反対するには、もっとよく考え、もっと努力しなければならない。粘り強い作業が必要です。よし、この問題と取り組んで長い道のりを歩いていこう、と決心するのか。よし、明日はデモに行ってこようか、と思うのか。その違いがあります。どちらを選ぶか。どんな運動でも、こうした決断を迫られます。公民権運動や女性解放運動も同じことです。
Q 国内の反体制派に向けられた脅威とか威嚇について話してください。移民や市民の一斉検挙もありましたね。
A 移民のような弱い立場にいる人びとはきっと心配していることでしょう。現政権は、過去のどの政権よりも強い権限を手にしています。
戦時には、42年の日本人一斉拘束など、かなり醜悪なことがおこなわれました。第1次世界大戦のウイルソン政権もずいぶんとひどいことをしている。
ところが今は、戦時にも前例がなかった権限を持っています。[テロリストと見なしただけで]市民を逮捕して、拘束する権限です。告訴する必要はないし、家族や弁護士と連絡をとらせないまま無期限に拘束できる。移民だけでなく、弱い立場にいる人びとは確かに用心する必要があります。
でも、世界中で大半の人びとが直面している脅威に比べたら、私たちのように恵まれた立場にいる市民が感じる脅威はたいしたものではありません。私は何度目かのトルコ訪問から帰ったばかりです。コロンビアにも行ってきました。そこの人たちが直面している脅威を思えば、私たちは天国に暮らしているようなものです。しかも彼らは何も気にかけていない。もちろん不安はあるはずです。でもそのせいで怯えたり、あきらめたりする様子はありません。
Q いつかヨーロッパと東アジアが、対抗勢力として台頭すると思いますか。
A もう十分に台頭していますよ。疑いなくヨーロッパとアジアは北米とほぼ並ぶ経済勢力です。どちらも自分たちの利益を守ろうとしていて、単にアメリカの命令に従っているわけではありません。
この三極の経済圏は、互いにしっかり結びついている。たとえばヨーロッパの企業は、アメリカや大半のアジア諸国にある企業群とあらゆる方法で結びつき、共通の利害を持っています。
逆に利害が対立することもある。これは、特にアメリカとヨーロッパにとって、ずっと昔までさかのぼる問題です。
いつもアメリカは、ヨーロッパに対してどっちつかずの態度をとってきました。一方では欧州統合を望んできた。市場が広いほどアメリカ企業にとって効率がよくなり、メリットがあるからです。他方では、ヨーロッパが独自の道を進み始めるのではと常に心配してきた。
東欧諸国のEU加盟について、いろいろと問題になっていますが、ヨーロッパの独自路線を警戒しているアメリカは、東欧の加盟を大いに望んでいます。ヨーロッパの中心勢力は、大工業国であるフランスとドイツです。どちらもアメリカとは別の道を選択する恐れがある。アメリカの影響を受けやすい東欧諸国がEUに加盟すれば、フランスとドイツの指導力を弱めることができる。それがアメリカの狙いです。
別の背景もあります。永いあいだアメリカは、ヨーロッパの社会と市場システムを嫌ってきました。賃金と労働条件、給付や手当を適正に提供しているからです。アメリカの制度とはまったく違いますね。アメリカは、ヨーロッパの制度の存在が許せない。危険だからです。アメリカの労働者がおかしな考えを持つようになる。
東欧諸国のEU加盟で、劣悪な労働条件や低賃金などが入ってくれば、西ヨーロッパの社会と労働の水準がくずれるかもしれない。それはアメリカにとって大きな利益だと明言しています。
Q アメリカ経済が衰えて、失業が増えています。ブッシュ政権はどのように戦争経費を捻出するのでしょう。アメリカは、永久戦争をつづけて多くの国を占領する軍事国家とも呼ばれている。これほどの軍事大国が維持できるのか。ブッシュたちはどうやって切り抜けるつもりでしょう。
A あと6年は、しのいでみせるつもりです。それだけ時間があれば、とてつもなく反動的な国内政策を法令や制度にすることができると考えています。それまでにアメリカ経済は、巨大赤字をかかえ深刻な状態に陥っていることでしょう。80年代に使った手口とほとんど同じです。後始末は次の政権に押しつければいい。
6年あれば、社会福祉をつぶすことができる。もちろん大嫌いな民主主義は、それまでに形だけのものにしてしまう。決定権を市民の手に委ねてはいけない。特定の個人や企業が握るようしておこう。ブッシュ政権の思い通りに計画が進めば、失われた権利の回復はとても難しくなります。彼らはそのやり方を心得ている。
こうして、解決困難な問題が遺産として残されるでしょう。だれもが痛みを感じ、苦しむことになります。ただ、大多数の市民がそうなるだけで、彼らが気遣っている階層は大もうけをする。レーガンの時代と非常によく似ていますね。何しろレーガン政権のタカ派たちが、そっくりそのまま今の政権に乗り込んできたのですから当然のことです。
対外政策としては、武力と予防戦争による帝国の支配というドクトリンを制度として確立しておきたいと考えています。
いまアメリカの軍事予算は、たぶん他の国を全部あわせた額よりも大きいでしょう。以前よりもはるかに高度な軍事技術を持ち、危険きわまりない方向へ進もうとしています。たとえば、宇宙の軍事化です。
[巨大な軍事支出のために]アメリカ経済がどうなろうとも、圧倒的な戦力を維持する。世界は力に屈服して、アメリカに従うしかなくなる。ブッシュ政権はそう考えていると思います。
Q 平和運動の活動家たちは、イラク侵攻を止めようと実に長いあいだ努力を重ねてきました。いま怒りと悲しみを感じているに違いない人びとに、何か伝えたいことはありませんか。
A 現実的になるべきだということ。奴隷制度が廃止されるまでの遠い道のりを思い起こしてください。ほんの小さな前進を勝ち取るまでに、どれほど長く苦しい運動がつづけられたか。思うような成果がすぐに得られない。だからといって、そのたびにあきらめていたら、どうなるでしょう。私たちがあきらめると、かならず最悪の事態を招くことになる。私たちは長く険しい道を歩いています。
この数ヶ月にあったことは、けっして無駄にはなりません。平和と正義を求める運動の基礎ができたからです。運動は世界的な広がりを持ち、さらに発展してゆく。そして、より困難な課題に挑戦してゆく。
いつの時でも、運動とはこういったものです。やさしい道のりではありません。
Noam Chomsky and David Barsamian, "Imperial Ambition," Monthly Review (May 16, 2003).
http://www.monthlyreview.org/0503chomsky.htm
http://zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=15&ItemID=3627
デイビッド・バーサミアンは独立系オルターナティヴ・ラジオ局の創始者で、現在ディレクターを務める。チョムスキーとのインタビュー集を数多く出版している。
著作権(2003年)
原文に関するすべての権利はチョムスキーが留保する。
( )は原文の挿入語句。
[ ]は訳文の補助語句。
翻訳/荒井雅子・別処珠樹
編集/安濃一樹
ヤパーナ社会フォーラム
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mailto:kazuki@japana.org