Japana Sociala Forumo

燃える反戦デモと社会フォーラム運動

安濃一樹別処珠樹

2002年11月25日

ロンドン40万人、ワシントン20万人、フィレンツェ100万人。ここ数か月、世界各地でアメリカの イラク攻撃政策に反対して、過去に例を見ない大規模な反戦デモが行われた。人々を反戦にかりたてるのは 何か。デモの状況とその背景を探ってみたい。

米を支持する英・伊政権に反対

ブレア首相がアメリカとの同調を表明しているイギリスで、大規模な抗議行動がつづいている。9月28日、 ロンドンの反戦デモには、主催者側の発表で40万人が集まった。ロンドン市長は、この30年間で最大で あると述べている。「ブッシュの犯罪」について追求を続ける著名なジャーナリストの一人ジョン・ピルジャー氏は、 大集会で次のように演説した。

──きょうこそ本当の民主主義が始まる日です。私たちは英国民の大多数を代表して今ここにいます。 ブッシュとブレアがイラクを攻撃するようなことがあれば、彼らは戦争犯罪者となります。私たちは 道のまん中を坦々と歩んでいるにすぎない。かれらこそが過激派です。かれらの殺人計画に反対する 私たちの抵抗はゆるぎないものになるでしょう──

このデモをアメリカの主流メディアは報道しなかった。国家安全保障担当のコンドリーサ・ライス補佐官は、参加人数を少なく見積もりながら、「35万人という数は(イギリス)数千万の人口からすれば大海の一滴にすぎない。ニューヨークタイムズ紙やワシントンポスト紙がニュースに値しない出来事だと考えても何の不思議もないだろう」とコメントした。同じ日、イタリアのローマで行われたデモには10万人が集まっている。

続く10月5日、ローマのデモは20万人に規模を拡大したと伝えられる。またミラノでは10万人が集まった。この日イタリア全土数十の都市で繰り広げられたデモに参加した人びとの総数は150万と報告された。これもアメリカでほとんど報道されていない。イタリアのベルルスコーニ政権は米の対イラク攻撃を支持している。

アメリカの平和行進

10月26日、世界各地で米のイラク攻撃政策に反対する集会が開かれた。 米の首都ワシントンでは歴史的な規模の反戦平和集会があった。警察発表で7万5000人、主催した国際組織アンサーの発表で20万人という人々が参加したデモは、ベトナム戦争時以降では最大であるとワシントンポスト紙が報じた。戦争が始まる前にこれほどの抗議運動があった前例はない。

ワシントンのデモ参加者たちは21番街をスタートしたあと、市街を通りぬけてホワイトハウスを一周しながら抗議の声を上げ、元の地点にもどるという3時間の大行進を行った。世代や人種を越えて、人びとは一つの目的のために歩み始めた。家族連れの参加者も数多い。子供たちがトランプ遊びをしている。高校・大学の若者たちは色とりどりのプラカードを掲げ、思い思いのコスチュームに身をつつんでいる。紅葉が進む首都の森や町並みを人びとが色鮮やかに染めていった。彼らの行進は平和を願い世界へと捧げられた花束である。

ワシントン以外はどうか。サンフランシスコでも大規模な抗議行動があった。「石油と引き換えに血を流すな」などのプラカードを掲げた人々の数は、APによると4万2000人、アンサーの発表では10万人に及んだ。

コロラド州デンヴァー4000人、ミネソタ州セントポール3〜4000人、メイン州オーガスタ2500人、ワシントン州シアトル2000人以上、同州スポケーン1000人以上、テキサス州オースチン数百人、アラスカ州アンカレッジ200人以上などと、地方都市にいたるまで全米各地で大規模な抗議行動がおこなわれた。路上に抗議の言葉を書く行動も見られ、逮捕者をだしたところもある。しかし全体としては大きな混乱はなく、市民の怒りが静かな行動で表現された。

この歴史的な反戦運動を世界の主流メディアはほとんど報道しなかった。日本の新聞でも小さな記事が散見できたばかりである。ニューヨークタイムズ紙の記事は何ページもめくって探さなければならなかった。しかも第一報では、主催団体の期待に反して数千人の参加者だったと紹介している。第二報では数万人の参加と書き換えた。しかし読者からの抗議が引きつづいたために、編集責任者が謝罪し、さらに訂正記事を掲載することになった。ワシントンポスト紙は適切だったけれど、本社がある首都での反戦運動に世界中が声をそろえた一日であったのに、関連記事を地元のニュース欄に掲載した。政府首脳の反応も伝えられていない。

ヨーロッパ等の抗議行動

同じ10月26日にヨーロッパでもアメリカを上回る大集会が開かれた。

ドイツはどこも大雨で、それにも関わらずベルリン8000人(警察発表)〜3万人(主催者発表)。フランクフルト、シュツットガルトがそれぞれ数千人。ハンブルク、ブレーメンいずれも数百人。オランダも雨と強風の中、アムステルダムでは「頭がおかしいのはバグダッドではなく、ワシントンだ」などというプラカードを掲げた人々が1万人。ロッテルダムでは1200人。

スペインでは27日に大規模な抗議行動が行われた。マドリード、バルセロナ、バレンシア、セビリアなど。中でもバルセロナは3万人以上の人たちが参加した。バルセロナではカタロニア語の横断幕が広げられ、「ブッシュ、ブレア、アズナールのだれが引き金をひくのか」などの文字が見られた。アズナールはブッシュを支持するスペインの首相である。フランスではパリが6000人。北欧では、デンマークのコペンハーゲンが3000人、スウェーデンのストックホルムが1500人など。南米プエルトリコのサンフアンでは「世界一のテロリスト」というプラカードを掲げてブッシュのお面をかぶった人が登場し、数百人が参加した。

アジアをみると、東京では学生を中心に600名、大阪600名、広島300名など反戦行動がとられた。フィリピンのマニラでは一日早く25日にアメリカ大使館前でデモが行われた。日本のメディアは、この日の世界の動きについてほとんど報じていない。

フィレンツェのデモ

11月9日、秋深まる中部イタリアの古都フィレンツェの週末は熱気で沸きかえった。アメリカのイラク攻撃に抗議する巨大な反戦デモだ。人口38万人のフィレンツェ市に、警察発表で45万人が集まった。100万人が行進したという報道もあるから、空前の規模だったことは間違いない。

フィレンツェ市の中心には、ウフィツィ美術館やドゥオーモ、ヴェッキオ橋など歴史的建造物が集中する。デモの拠点になったのは、中心部のすこし北、フィレンツェ鉄道駅に近いバッソ要塞だった。16世紀に建てられたこの巨大な五角形の建造物に参加者が集まり、他の拠点に集合した人々と合流して予定より早く行進が始まる。市の中心を流れるアルノ川沿いを進み、市街の東にあるスタジアムまで整然と進んだ。鉄道やバスで駆けつけたイタリア人が多かったが、ヨーロッパ各地から参加した人々も6万人に及んだと見られ、ロシア・ポルトガルなど遠方からの人びとの姿もあった。

無数のプラカード・横断幕には「西洋が真のテロリストだ」「ブッシュをおろせ、爆弾を落とすな」などとあり、ブッシュ米大統領をヒトラーに、ベルルスコーニ伊首相をムッソリーニになぞらえるプラカードも出現した。ブラスバンドやバグパイプの楽隊、70年代の反戦歌を歌うグループ、小旗を振る孫の手をひいた女性の姿も見られる。こんなにすさまじい人並みを見るのは生まれて初めてだと、参加者のひとりが語っている。

このデモについて事前に米国務省が警告を出した。10月31日付けの警告文はおよそ次のように書いている。11月6日から10日までフィレンツェで「欧州社会フォーラム」が開かれる。9日のデモ行進は参加者が10万人を超えると見込まれる。昨年のジェノバにおけるG8の際のデモでは、死者が出るなど混乱した。今回、主催者側は平和のうちに行進するというが、観光客などは警戒を要する、云々。

米国務省がこのような警告を出すのは異例のことで、事態の進行に大きな警戒感を持っていることが伺える。欧州社会フォーラムの会場はバッソ要塞であった。

欧州社会フォーラムの創設

1998年頃から、世界貿易機関(WTO)・世界銀行・国際通貨基金(IMF)などグローバル化の推進機関が会議を開こうとすると、かならず抗議デモが行われるようになった。グローバル化が先進国と貧困国の格差を広げ、環境汚染などさまざまの問題を生んでいることに抗議するものだ。その過程で、抗議だけでは問題を解決できないことに気づいた人びとは、新しい方向を模索し始めた。

その成果として現れたのが昨年1月、ブラジル南部のポルトアレグレで開かれた「世界社会フォーラム」である。参加型民主主義を積極的に実践するポルトアレグレ市の行政姿勢を評価し、1万6000人が集まった。人々は簡潔な憲章を定めるとともに、数多くの新しい方向を議論していった。

今年1月に開かれた第2回の世界社会フォーラムには5万人が集まったといわれる。ここで得られた成果の一つは、各地で地域フォーラムを開催する方針が確認されたことだ。欧州社会フォーラムは、この方針に沿って準備が進められたもので、3月ブリュッセルの準備会を皮切りに会議を重ねた。

周到な準備のあと11月6日、フィレンツェで初のフォーラムが開催された。5日間の日程のうち、4日目の土曜日がデモ行進にあてられ、ヨーロッパ各国からのフォーラム参加者と一般市民とがともに行進した。最終地点のスタジアムではコンサートが行われたが、それが始まる前に各国語で簡潔な宣言文が読み上げられた。

──ヨーロッパはネオリベラリズムや人種差別に反対する。ヨーロッパは社会正義と人権を求めて戦争にも反対する。イラクを攻撃してはならない──

来年の欧州社会フォーラムはパリが予定されている。欧州以外にもアジア、アフリカ、アマゾン、地中海のフォーラムが予定されている。またザルツブルク、マニラ、ボローニャといった小地域の社会フォーラムも無数に組織されつつある。

米の誤りを見抜く世界の市民

これらの反戦運動に共通して見られるのは、戦争を始めればブッシュ自身がテロリスト・戦争犯罪者になるという主張だ。デモに参加した層が幅広いことにも注目する必要がある。イラク攻撃に関する米の主張はまったく信用されていない。反面、米経済が倒れたら自国の経済もあやうくなるという懸念を皆が感じている。世界社会フォーラムで新しい経済=参加型経済が模索され始めているのは、その表れだといえる。

対する米は、国務省の警告に見られるように世界的な世論の高まりにいらだちを感じ、警戒を深めている。これは無関心を装う主流メディアの報道姿勢にも表れている。しかしフィレンツェのデモに関する報道は、欧米の主流メディアも無関心ではいられなくなったことを示す。

日本のメディアがブッシュ政権の見解を追認する記事ばかり書いている現状は、そのまま日本政府の姿勢とみることができる。フィレンツェのデモについて新聞はほとんど書かなかった。日本の民衆が世界の流れから取り残されているとすると、マスメディアの罪は大きい。

編集/安濃一樹
ヤパーナ社会フォーラム
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