Japana Sociala Forumo

評論 第152回 2005年1月1日

ブッシュ政権と世界──2期目

国内政策は予想の範囲

ジョージ・W・ブッシュ大統領が再選され、2期目の4年間も政権を担当することになった。国内政策に関しては既に所信を明確に表明済みのため、どんな政策を打ち出すかはある程度予想がつく。ブッシュ政権は減税を推進し、社会保障制度は可能な限り民営化を図るだろう。また司法面では、経済や社会について自分と同じ保守的な価値観をもつ裁判官しか任命しないはずだ。さらに環境保護に関してはできるだけ法規制をなくす一方で、警察の捜査・起訴に関しては権限強化を図る。一言で言えば、伝統的な右よりの政策運営をすると考えられる。

しかし外交政策となると、どんな姿勢で臨むのかそれほどはっきりしない。それは、ごく単純な理由からだ。1期目のブッシュ政権が強力に推進したのは、ある特徴的な外交政策だった。すなわち、いつでもどこでも好きなときに単独行動主義で先制攻撃をかけるやり方である。しかしこの外交政策は、内外の専門家からみても、多くの政権支持者からみても、成功したとは言い難かった。

共和党内にも意見対立があることは、保守的な大物政治家数人がラムズフェルド攻防長官の辞任を要求したのに対し、ブッシュ大統領自身を含む数人がすぐさま同長官支持を打ち出した先月の動きからもみてとれる。同長官が、1期目の一連の政策を提唱した人物であることは改めて言うまでもない。

それでは今後はどうなるだろうか。検討すべき問題は大きく分けて二つある。第一は、2期目に入ったブッシュ政権は1期目と同じ外交政策を推し進めるのかどうか。そして第二は、もし政策が変更されるとしたら他国はどう対応するのか、ということだ。

総選挙実施が最優先課題

喫緊の課題はイラクである。2005年に入って米国が直面する最優先の政治課題は、1月末に総選挙を実施することだ。なぜ総選挙の実施がそれほど重要なのか、ここで理由を説明しよう。

第一に米国は、いくら反政府勢力が妨害しても選挙は実施可能であることを誇示できる。第二に、万一総選挙が実施できなかった場合、シーア派最高権威アリ・シスタニ師から非難される恐れがある。シスタニ師は、米国と慎重に距離を置く現在の姿勢から、あからさまに敵対姿勢に転じかねない。

第三に米国としては、イラクでの政治・軍事紛争を「イラク反政府勢力対米国」という図式から「イラク反政府対選挙で選ばれた正統なイラク政府」という図式に転換したい。そして第四に、イラク駐留米軍の規模縮小にあたっては、選挙の実施が大前提とみなされている。もちろん米国だけでなく、イラク暫定政府や主流派であるシーア派なども選挙の実施を切望している。

こうした理由がそろっている以上、たとえテロが継続・激化しても、またスンニ派を中心に大量の棄権者が出ても、選挙はまず間違いなく実施されるだろう。だがその後はどうなるだろうか。恐らくは、シーア派最大組織、イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)の指導者、サイード・ハキム師を首相とする新政権が誕生すると考えられる。新政権が国民を代表する政府として必要最小限の信任を得てスタートできるかどうかは、選挙の実施状況とハキム師の行動次第だ。

一方で反政府勢力が、新政府は米国の傀儡(かいらい)だと非難を続けることは間違いない。そして遅かれ早かれ新政府は、アラウィ現首相がとっているあからさまな親米政策を踏襲するか、イラク国民の要求にかなう民族主義的な路線を採用するか、決断を迫られるだろう。そうなったとき、新政府が自己の正統性を高めるために民族主義寄りになるであろうことは、中東専門家でなくとも容易に想像がつく。

そうなれば米国には、イラク駐留軍の撤退を求める圧力が三方からかかってくるはずだ。イラクの反政府勢力、イラク新政府、そして自国の世論である。米国で行われた世論調査はどれも、米国が払う代償(兵士の死亡・負傷や戦費など)は高すぎると考える人が増えてきたことを示唆している。米国は孤立主義的な反応をみせ始めたと言えよう。そして孤立主義論者は伝統的に共和党に多いことを考えると、いずれブッシュ政権そのものの足元から米軍の撤退を求める声が高まることは間違いない。

とは言え政権内には、新保守主義派(ネオコン)や武力優先論者(ちなみに両者は決して同じではない)など、そうした意見に激しく反論する一派もいる。だかこの一派の発言力は、2003年に比べると大幅に弱まった。以上の点を勘案すると、米国の外交政策には大きな振れが予想される。パウエル国務長官、ブレント・スコウクロフト元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、そして民主党の保守派指導者(ジョセフ・バイデン上院議員、ジョセフ・リバーマン上院議員ら)が掲げた中道的な「多国間主義」路線の存続は、もはやの望めそうもない。

他の地域でも打つ手乏しく

ブッシュ政権の対イラク政策は、どう政権の他の外交政策すべてを示す手がかりとなるだろう。既に北朝鮮とイランに関しては、米国は暗黙の内に自国の無能力を認める立場に後退している。外交チームはあれこれ口出しはするものの、できることはほとんどないと承知しているらしい。

またイスラエルとパレスチナについても、和平交渉再開を歓迎してはいるが、自ら推進役を果たそうとはせず同調するにとどまっている。再開に向けて尽力しているのはブレア英首相だ。いずれにせよ、交渉が再開されても実を結ぶ可能性は低い。となれば、脇役にとどまっている方が国内であまりたたかれずに済むとの計算だろう。

世界を見渡して、ブッシュ政権が外交面で力を発揮できそうなのはどこだろうか。キューバだろうか。明らかにブッシュ大統領はそうしたがっている。だが大統領の支持基盤であるアラバマ州政府高官は、自分たちがキューバに鶏肉を売らなくてもブラジルが売るだろうと指摘。さらに、キューバに対する経済制裁は、フロリダ州に流れ込むキューバ難民に理由を与えるだけだと述べた。キューバに対する強攻策を支持する空気は、米国内にはまったくない。

それではロシアはどうか。ウクライナの選挙を機に、プーチン大統領に対する米国何の感情はかなり悪化した。それでもブッシュ大統領は、米国は引き続きプーチン大統領を支持するとの方針をあえて示している。では、中国か。アジアで強まりつつある中国の政治的影響力に対してブッシュ政権は神経をどがらせてはいるものの、米国の経済的利害を考えれば、中国に敵対する選択肢はあり得ない。では欧州はどうだろう。ラムズフェルド国防長官がしきりに称賛した「新しい欧州」ですら、次第に米国に背を向け始めた。

要するに、ブッシュ大統領にはあまり打つ手がない。そして大統領は現実的で抜け目のない政治家であるから、勝ち目のないゲームには手を出さないだろう。

それでは米国が軍事面でも経済面でも事実上内向きになるとしたら、他国はどう反応するだろうか。当初は慎重に腹のさぐり合いになるが、いずれは、露見した米国の地政学的な弱みを自国に有利に利用しようとするだろう。問題なのは、世界における米国のプレゼンスが弱まるのは、居間の中から巨象が出ていくのに等しいということだ。空いた空間をどう埋めればいいのか、誰にもわからない。そうした状況に対応する政策がどの国にも用意されていないのは確実である。従って、地政学的に重要な国々が押しのけ合う不安定な事態が発生しかねない。

米国は、ブッシュ大統領が政権の座に就いた2001年に、既に覇権を失いつつあった。1期目の4年間で世界における米国の地位を回復しようと務めたブッシュ大統領は、実際には弱体化を進行させたと言える。米国とブッシュ政権は、2期目にその愚行の報いを受けねばならない。

2005年1月13日 日本経済新聞「経済教室」

イマニュエル・ウォーラーステイン

Immanuel Wallerstein, "Bush and the World: The Second Term," Commentary No. 152 (Jan. 1, 2005). http://fbc.binghamton.edu/152en.htm

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